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ノベル>SS1>そらのうた | ||
Misty Rain
0 いつかどこか、男の子と女の子が居ました。 男の子の耳は音を捉えません。 女の子の目は光を映しません。 ふたりはお互いにお互いを支える、童話のように優しい姉弟でした。 1 男の子はシドと名付けられました。 シドは自分の声さえ聞こえないので、滅多に口を開きません。 いつも通り、姉の手の平に『朝ご飯出来たよ』と指で書きました。 「 」 姉は笑顔で応えました。 テーブルにふたりは並びました。 「 」 姉は言いながらシドの手を握りました。 シドは自分の食事を後回しにして、いつものように姉の口へ料理を運びました。 「 」 姉はいつも通りの言葉と一緒に、いつも通りのお辞儀をしました。 食事を終えたシドは、テーブルを机代わりに書き物をしていました。 それは左から右とは限らない、上から下とは限らない、繋がりの稀薄な散文。 そうして、二時間ほどして。 そらのうたができました。 シドは『散歩に行こう』と姉の手首に指で書きました。 「 」 姉をベッドから抱き上げて、そのまま廊下を歩きました。 車椅子に座らせて、重たい扉を開きます。 すると、外にはまばらな雨が。 車椅子を押して歩くシドの手には相合い傘。 姉は目をつむり、眠っていました。 人とすれ違い、車とすれ違い、遊覧船とすれ違い――― この国で一番大きな湖に着きました。 ―――姉は吃驚してシドへと振り向きました。 シドは少しはにかんで、そして続けました。 2 女の子はソラと名付けられました。 ソラはずっと空白の中に居るので、ひとりでは動くことさえ億劫です。 その日も弟の指が掌をなぞらなければ、起き上がることはなかったでしょう。 「ごめんね……それと、ありがとう」 ソラは優しい笑顔を見せました。 テーブルにふたりは並びました。 「えっと……お願いします」 弟の手を握り、ソラは言いました。 箸と食器がぶつかり合う音を聞きながら、ソラは弟の運ぶ料理を食べました。 「ごちそうさまでした」 弟の料理が冷めないよう、お腹いっぱいではなかったけれど、ソラは口を止めました。 部屋に戻ったソラは、点字の本を開きました。 あまり親切な構成ではないその本に孤軍奮闘。 ポツポツと散る雨の音を聞きながら、二時間ほど指でなぞって。 眠気に襲われて、万年床の布団を抱きました。 一度だけ踏まれて、そのあとで抱き上げられて。 寝惚け眼に『散歩に行こう』と提案されました。 「あの……外、雨だよ?」 抗議もむなしく、そらは車椅子に放られました。 玄関を開くと、雨の音。 傘を開く音を聞いて一安心、そらは雨の音に包まれて眠っていました。 人の足音、車の走る音、船の汽笛――― いつも通りの、雨よりなお深い水の匂い。 この国で一番大きな湖に着きました。 唐突に。 弟の声を聞きました。 それはとても綺麗な歌でした。 それは、とても、綺麗な歌でした。 EX いつかどこか、女の子と男の子が居ました。 女の子の目は光を映しません。 男の子の耳は音を捉えないなんて嘘。 支えられてばかりの女の子を庇う、童話のように優しくて残酷な嘘。 (ss1-6.html/2003-09-28) /カミナシノセカイへ |
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01 カノンコード 02 恋の準備運動 03 へのもへ 04 灰かぶり姫のロンド 05 蜻蛉の翔べない日 06 そらのうた 07 カミナシノセカイ 08 琥珀のマナ娘 09 ラストテクノロジー 10 イノセントソネット 11 ノーバディノウズ・ミレニアムアーク 12 忘却のアルケミスト 13 山梔子のスケアクロウ 14 ノーバディノウズ・ワールドエンド 15 イノセントカスタネット 16 ロストノスタルジー 17 群青色の盟約 18 カナシミノセイカ 19 そらなきのうた 20 夏の虫 21 夜明けの魔法使い 22 へのもじ 23 道行きの詩 24 マイノリティファントム Ruby 空白-ヒカリ- |