カーネーション
ノベルSS1>群青色の盟約
Ultra Blue
 屋敷の縁側には紫陽花の花畑。
 霧雨の舞う、異世界のような箱庭で。
 君と僕は出逢った。
 それは琥珀飴のような、甘い匂い。

「こんにちはっ」
「―――こんにちは」

 金色の髪。
 白いワンピースの制服。
 チェーンロック・ネックレス。
 そして琥珀飴のような、甘い声。

「はじめまして?」
「はじめまして」
「…………」

 沈黙が流れる。
 見とれて、否、その声に聞き惚れていた僕は、はっとした。
 自己紹介を済ませる。
 君の名前を手に入れる。

「みじかいなまえですね……」
「よく言われるよ」
「でも、いいなまえ」
「ありがとう」

 僕の隣に座る君。
 傘を畳む。

「雨の中、なにをしていたの?」
「まっていたの」
「誰を?」
「ないしょ」

 耳にするのは、やはり声。
 それでも目に付くのはチェーンロック。
 自転車の、チェーンロックだ。

「あめのひは」
「うん」
「じゃのめでおむかえ」
「嬉しいね」
「…………」

 ポケットに手を入れる君。
 その掌には、琥珀飴。

「たべますか?」
「貰うよ」

 安易に捉えれば。
 自転車で迎えに来た母親が、交通事故に遭ったとか。
 舌っ足らずな声は精神年齢の幼さか。
 それとも―――

「ところで君は、どうしてこの家に?」
「よくわかんない」
「そっか」
「うん」

 交通事故。
 加害者が僕の両親であるのなら。
 いまは被害者の娘を一時的に預かっているのだろうか。
 あるいは遺族か。

「おなかすいた」
「なにか作ろうか」
「わたあめ」
「それは君、お腹空いてないね」

 とはいえ―――君は外国人だ。
 舌っ足らずな口調は国に帰れば饒舌で。
 なによりも、不幸話はもう聞き飽きた。
 君の事情を聞かないことにした。

 それは群青色の雨の日。
 僕は君に恋をした。
(ss1-17.html/2004-11-13)


/カナシミノセイカへ
short short1
Title
01 カノンコード
02 恋の準備運動
03 へのもへ
04 灰かぶり姫のロンド
05 蜻蛉の翔べない日
06 そらのうた
07 カミナシノセカイ
08 琥珀のマナ娘
09 ラストテクノロジー
10 イノセントソネット
11 ノーバディノウズ・ミレニアムアーク
12 私を、忘れもの
13 貴方の、探しもの
14 ノーバディノウズ・ワールドエンド
15 イノセントカスタネット
16 ロストノスタルジー
17 群青色の盟約
18 カナシミノセイカ
19 そらのえかきうた
20 夏の虫
21 十二時の魔法使い
22 へのもじ
23 ガールハント・メモノート
24 マイノリティファントム
/エスエスワン・インデックスへ