カーネーション
ノベルSS2>灰かぶり姫は居ないのに
Galopp
  EX

 僕はアミューズメントパークが嫌いだ。嫌いだから何が楽しいのか分からない。四十分も待って灰かぶり姫の城に入っても、灰かぶり姫は居ないじゃないか。真意に日常から離れた世界だというのなら、国一番に美しい女性を城に住まわせろと言うのだ。同じ理由で数多あるハリボテの家も嫌いだ。なんの意味があるのか分からない。折角家を建てるのなら、夢の国の住民を住まわせればいいじゃないか。住人はやがて日常を放棄して、日常から離れた夢の世界を用意してくれるというものだろう? ホテルなんて建てずに、夢の国にホームステイさせればいい。この国にある民宿のノリだ。多くの者は日常に戻るだろうが、稀に永住を望む者も居る。そいつにローンを組ませて、夢の家を買わせればいい。ねずみ算式に大儲けだ。やがて土地が足りなくなって、夢の国は僕たちの国から土地を買う。ねずみ算式に拡大して、拡大するからまた客が増える。客の中からまた夢の国に永住したい奴が出てきたら、また土地を増やせばいい。なに、夢の国は「国」じゃない。僕たちの国から土地を買うのは大したことじゃないさ。やがて灰かぶり姫が二代目になる頃、彼女は夢の国から出ない本物のお姫様になる。母親が国一番の美しさで、生活はロココレベルなのだ。美しくないはずがないというのは、男の幻想じゃないだろう? 子供も大人も灰かぶり姫目当てで来るようになって、その頃には現存しているアトラクションは退廃してゆく。真意の灰かぶり姫、真意のヘラクレス、真意のパレードを求めるさ。灰かぶり姫が二代目ということは、夢の国の住民はみな二代目。国が広すぎるために、多くの者は外に出ない。就職活動もなにも困ることはないのだ。夢の国に私立の学校を作ってしまえば、もう外に出る義務もない。公道じゃないから車の免許も要らない。いや、そもそも車が要らないだろうな。二代目はみな外の世界に興味を持つことなく、ウェイターのアルバイトをして、家でテレビを観る。ネズミペインティングのサッカーボールを蹴る。外からの来訪者に道を教える。外との境界は曖昧になって、それでも外から見るとそこは夢の国なのだ。何故ならそこにはコンセプトがある。変わらないファッションセンス。変わらない建築様式。変わらないジャンクフード。変わらない灰かぶり姫の美貌。変わらないヘラクレスの巨体。変わらないパレードのパターン。変わらない変わらない変わらない。不変の、夢の国なのだ。普遍の夢の国と僕たちの国。その数少ない接点を考えよう。総合格闘技に招かれたヘラクレス、その遺伝子学に基づいたボディ&スキルでチャンプを撃沈! 灰かぶり姫の美しさに暴徒と化した一般入場客を騎士が追い払う! 日常よりも、テレビよりも優れていることが証明されたふたり。夢の国への入場料は次第に上がってゆき、住人の給料は増える一方。第二のブルネイとなる頃には、夢の国が国会の議題に上るだろう。法律は恐らく犯していない。独立宣言なんてしていないし、企業も住民も税金を払っている。土地を拡大し過ぎることもない。まだ市の半分だ。夢の国は暴走することなく、頭のいい運営が為される。故に夢の国。真意の、不変の、夢の国だ。なんて妄想を膨らませながら待つ灰かぶり姫の城、四十分。隣に並ぶ友達は「そろそろだ」と言った。灰かぶり姫は居ないのにね。
(ss2-5.html/2004-12-05)


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01 黒猫のフーガ-Volevo Un Gatto Nero-
02 仔牛の翼-Donna Donna-
03 夜明けの晩に-Ring Ring-
04 おじいさんのロボット-Grandfather's Clock-
05 灰かぶり姫は居ないのに-Galopp-
06 ヴォルケイノサーカス-Funiculi Funicula-
07 ふたりの子-Seven's Children-
08 墓場の手紙-Massa's in De Cold Ground-
09 きみの居る世界-Barbara Allen-
10 銀色人形姫のソワレ-Eine Kleine Nachtmusik-
11 人魚姫のレクイエム-Requiem-
12 人魚姫のレクイエム-Die Lorelei-
13 ファイナルノスタルジア-Ikaros-
14 夢の夜の真夏-Midsummer Night's Dream-
15 隷属のラストサディスト-Traumerei-
16 悠久のリインカネーション-Jeux Interdits-
17 ほしのうた-Stille Nacht-
18 雪と月と花の季節-Those were the Days-
19 シュレディンガーの地球儀-Korobushka-
20 ノクターナルミレニアム-Hallelujah-