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ノベル>SS2>銀色人形姫のソワレ | ||
Eine Kleine Nachtmusik
0 僕のお嫁さんにしてあげる。 1 昔々あるところに銀色の髪のお姫さまが居て、それも童話のように容姿端麗。ついでお風呂好きの人魚姫でもあり、人を魅了する舞姫でもあり、ハープを愛用する歌姫でもあったのだとか。 理想的な姫君であるところの彼女は、幼くして異国の王の許嫁に選ばれる。言葉も知らない異国の妃に。言っても彼女は母親の人形姫でもあったので、言葉に意味なんてなかった。お願いしても通じなくて、許していないのに好きにされるだけのこと。いままでとなにひとつ変わるところなく。 いまだ許婚同士であるいつかのとき、姫君と異国の王は郊外の森で出逢うことになる。彼は醜いけれど心優しく、武なくも頭のいい、例外のような王だった。 十四歳の春、花嫁引き渡しの儀式。衆人環視の中、祖国の服をすべて脱ぎ捨て、異国の服を身にまとう銀色人形姫。 そしてここからが、悲劇の幕開け。 などということはなく、というか彼女は人形姫ですらなかった。彼女に許されないものなんて殆どなくて、お願いごとを断るのは彼女の方だった。母親は十六人の子を持ち、それ故に自由に育てたのだとか。お風呂好きの人形姫になりますように。人を魅了する舞姫になりますように。神に愛された音楽家に求愛される歌姫でありますように。強制ではなく矯正、ぬるい愛情。心地いい安定した自由。彼女は家族に愛された灰かぶり姫で、灰かぶり姫であるからには幸せの具現でなければならないのだった。 「退屈なんて、つまんない」 昼は眠り姫を演じ、夜は舞踏会を開催する乙姫さま。コルセットなんて大嫌い。勉強なんて大嫌い。 王様は不細工で不能で、その寂しさを紛らわすために踊り明かしたのだとか。でも理由なんてどうでもいいよね。元より恋のない愛なんて成立しないという話。 いまはただ、幸せを語りましょう。 未来の為に、幸せと騙りましょう。 美しく魅せるために、真紅のドレスを織らせましょう。 (コルセットなんて大嫌いなのに、人形であれと縛り付けるのでしょう?) 勉強なんて大嫌いだから、母親からの手紙なんて破り捨てちゃえ。 (母親からの手紙なんて、受け取る前に破り捨てられちゃって!) 「パンがないのなら、ブリオッシュを食べればいいのに」と蔑む劣悪な王妃の、 「パンがないのなら、ブリオッシュを食べればいいのに」と小首を傾げる人形姫の、 そしてここからが、悲劇の幕開け。 生まれてすぐに娘は死に、子供の内に息子は死んだ。 予想通りの彼女は子女を設けたことにより賭博をやめ、理想通りの彼女は子女を失っても泣くことはなかったのだろう。 首飾り事件。王妃を嫌う民衆の流れ。 俺たちが不幸なのはすべて王妃のせいで、 王妃のせいで俺たちが不幸なわけじゃないけれど。 予想通りの彼女は無知故に人の反感を買い、理想通りの彼女は白痴故に人の中傷を受けた。 有り体に言えば、彼女は誤解に満ちた悲劇の王妃で。 先の言葉も彼女の言葉じゃないと死後に弁解されるけれど、手遅れで。 その最期には、最後の斬首刑を仰向けに受けてこの世を去ることになる。 まるで生け贄のような、首切り人形姫。 「ごめんなさい」 「………わざとでは、ありませんの」 2 幼少の頃の話。彼女は歌姫で、歌姫であるからには神に愛された音楽家にさえ求愛される。宮殿の床に転んだ音楽家は、麗しの姫君に助け起こされた。当時六歳の彼は、ひとつ年上の彼女に告白する。 「きみは優しい人だね。僕のお嫁さんにしてあげるよ」 彼女が予想通りに享楽的な性格ならば笑って断っただろうし、彼女が理想通りに白痴の人形姫ならばやはり笑って断ったのだろう。 姫君の没する二年前に病死する彼は、あるいは彼女と付き合うという物語もあったのかも知れない。同じ時代に生まれて同じ時代に死ぬという縁。かたや悲劇の王妃、かたや喜劇の神童。 変態さんの好きにさせてあげればよかったという話です。 (ss2-10.html/2006-02-10) /人魚姫のレクイエムへ |
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01 黒猫のフーガ-Volevo Un Gatto Nero- 02 仔牛の翼-Donna Donna- 03 夜明けの晩に-Ring Ring- 04 おじいさんのロボット-Grandfather's Clock- 05 灰かぶり姫は居ないのに-Galopp- 06 ヴォルケイノサーカス-Funiculi Funicula- 07 ふたりの子-Seven's Children- 08 墓場の手紙-Massa's in De Cold Ground- 09 きみの居る世界-Barbara Allen- 10 銀色人形姫のソワレ-Eine Kleine Nachtmusik- 11 人魚姫のレクイエム-Requiem- 12 人魚姫のレクイエム-Die Lorelei- 13 ファイナルノスタルジア-Ikaros- 14 夢の夜の真夏-Midsummer Night's Dream- 15 隷属のラストサディスト-Traumerei- 16 悠久のリインカネーション-Jeux Interdits- 17 ほしのうた-Stille Nacht- 18 雪と月と花の季節-Those were the Days- 19 シュレディンガーの地球儀-Korobushka- 20 ノクターナルミレニアム-Hallelujah- |