梅
ログリバーシブル・リバース>アポローグ
Apologue
1.Moon Struck

 深夜。
 オレは外に出た。
 ポケットを叩けば牙ふたつ。
 復讐の始まり始まり。
「大神」
 ノイズが走る。
 電信柱に人影。
 それは小柄な少女だった。
 肩口には革袋を背負っている。
「どこへ行くの」
「ちょっとコンビニに」
「嘘だ」
「山へ芝刈りに」
「嘘だ」
「狼少年かよ」
 そして。
 彼女は革袋から竹刀を抜き取った。
「復讐は快楽しか生まない」
「不眠症は解決すべきだろう」
「この国には司法も警察もある」
「それでも彼女は、オレを頼ったんだ」
「……狼は、喰い散らかすことでしか物語を終わりにできない」
「継母と義姉が喰い殺されれば、少なくともシンデレラは不幸ではなくなるだろう?」
「そのあとで、狼は狩られる運命」
「オレは弱くない」
「強くもない」
「試すか?」
「うん」

「復讐者の……敵になる」
2.xxxx

 犬の遠吠えを合図に。
 戦闘開始。
「上段!」
 左腕を振り上げてガードする。
「なぎ払い!」
 右手で掴み、受け止める。
「天地無用!」
 掴んだ竹刀を軸に―――投げ技?
 手を離し、後方に跳躍して回避した。
「まさか剣道に投げ技があるとは」
「竹刀か木刀でしか使えない、我流奥義」
「ふうん。得物が木刀だったら、そもそもなぎ払いを受け止められなかったけどな」
 とはいえ―――竹刀の方が、スイングが速いのか。
 ダメージは少ないが、それはそのまま竹刀が壊れにくいことを指しているのだろう。
 短期決戦が望まれる。叩くべくは本体の方だ。
「次はこっちから行くぜ」
「うん」
 地を蹴り、上半身を落とし込む―――狼のごとき襲撃!
「居合い斬り!」
「ぐはぁーっ!」
3.????

 オレは地に倒れ伏した。
 空には満たされたお月さま。
「剣道三倍段か」
「段位、持ってない」
「それなら第二ラウンドだ」
 立ち上がる。
 さっきは勢いをつけて突っ込んでいったからダメージが大きかった。
 冷静に攻撃を捌き、本体に一撃入れれば済む話。
「三回捌けば―――オレの勝ちだ」
 ボクサーのポーズで、威圧するようにして歩み寄る。
 相手の間合いに入る。
「抜き打ち!」
 下段からの攻撃を右腕で受け止める。
「逆胴!」
 中段への攻撃を左腕で受け止める。
「鍔迫り合い!」
 受け止めた左腕ごと吹き飛ばされる!?
 いや―――踏ん張りはきく。地力は勝っているのだ。
「ここまでだな。手を伸ばせばすぐそこに、あれいない!」
「八艘飛び―――」
 声は真上から。
 見上げれば、苺のような可愛らしいお尻。
「―――兜割り!」
4.????

 両腕を交差させて受け止める。
 利き腕が痺れて動かなくなってしまった。
 宙返り、間合いを取った位置に着地する少女に尋ねる。
「武器を持った相手にどう戦えばいい?」
「大神も武器を出せばいい」
 オレはポケットから二振りのナイフを取り出した。
 コンバットナイフとサバイバルナイフ。
「銃刀法違反もいいところだよな」
「中学生だから、大丈夫」
「でもおまえを殺しちゃうかもしれない」
「大神になら殺されてもいいよ」
「中学生め」
 勝利条件の変更。
 竹刀を叩き斬ればオレの勝ちだ。
「剣速にも痛みにも慣れた。加えて武器性能もこちらが上。負ける要素がないぜ!」
 右手にサバイバルナイフを。左手にコンバットナイフを。
 両手にぶら下げて距離を詰める!
「疾風突き!」
 体内時間の加速。突きはまずい。必殺じゃないか。奥の手を残していやがった。
 転ぶように身体を傾けて、辛くも回避する。必殺の一撃に隙が生じた。
 いまだ! 左腕を振り上げて、竹刀を叩き斬る―――!
「回転斬り!」
 しかしサバイバルナイフは空を斬る。竹刀はまるで蛇のようにしなり、回避される。
 回転斬り。少女が背中を向けたのは一瞬。放たれる右側からの胴打ち。
 コンバットナイフは使用不可。利き腕は動かない―――なんて、嘘だけどな!
「我流奥義―――」
 振り上げた虎の子のコンバットナイフを這うようにして。
 竹刀が防御をすり抜けた。
「―――ヘビイチゴ!」
5.xxxx

 結果的に。
 回転斬りからの剣の軌道修正は、技二発分の時間を要してしまった。
 竹刀であるが故の対策は、竹刀の軽さをしてなお覆せないデメリットとなったのだ。
 だから決め手は、武器の性能差。
「チェックメイト」
 サバイバルナイフを首に突きつけるのと、竹刀が頭を捉えるのはほぼ同時だった。
 ふたり、武器を仕舞って―――プラネタリウム・ダイアログ。
「わたしの負け」
「いや、引き分けだろ」
「竹刀の斬撃じゃ致命傷には至らない」
「おもちゃのナイフだって、人を殺せやしないよ」
 サバイバルナイフの刃を掌に押し当てて、証明する。
「血は見たくない」
「復讐は?」
「それはメイコちゃんが決めることだ」

「シンデレラは、ガラスの靴を踏み鳴らしながら―――自分の足で歩くものだぜ」
6.xxxx

 後日談。
 真昼の居間にて、リグレット・ダイアログ。
「お父さんのところに行くことになりました」
「そうか……」
「お引っ越しですね」
「しばらく会えないな」
「そんなことは」

「だってお父さん、この団地に住んでいますし」
「ご近所物語!」

「悪かったな」
「といいますと?」
「助けたのがオレじゃなくて、どこぞの王子さまだったらよかったのにな」
「仰っていることの意味が」
「復讐か、あるいは駆け落ちをして欲しかったんじゃないのか?」
「ああ―――なるほど」
「男性恐怖症が残ってしまう」
「そんなことは、ないですよ」

「それは、あなたの方なんじゃないですか?」

 言って、彼女はおでこにキスをした。
 それは祝福のフレーバー。
「末永くよろしくお願いしますね、支倉大神さん」
(log3-f.html/8888-88-88)


/ストロベリー・ダイアログへ
Reversible Rebirth
プロローグ
エクローグ
ロマンシング・ダイアログ[前編]
ロマンシング・ダイアログ[後編]
プラトニック・ダイアログ[前編]
プラトニック・ダイアログ[後編]
アポローグ
ストロベリー・ダイアログ
リバーシブル・リバース[前編]
リバーシブル・リバース[後編]
オルタナティブ・ダイアログ
エピローグ
クロス・ダイアログ
プールサイド・ダイアログ