梅
ログリバーシブル・リバース>プラトニック・ダイアログ[前編]
Platonic Dialogue[A]
0.xxxx

 白馬の王子様なんて信じてるわけじゃない。
(聖少女領域|ALI PROJECT)
1.Platonic Dialogue

「女同士の場合、それはセクハラとは呼ばないのでは?」
「線引きに個人差が許されるのは、被害者の方だけです」
「ということは、相手が無抵抗ならなにをしてもいいと」
「それを見咎めるのが風紀委員長の役割といえましょう」

「恋人の目の前で、赤の他人に抱きついたりしたらダメですよ」
「ん、オレとちーちゃんが本気で付き合っていると思っていたのか?」
「軽い気持ちで付き合っていたんですか?」
「最初から付き合ってねえよ! オレたちは女同士だよ!」
「一人称がオレの人が言えたことでは」
「言い返せない!」

「それに百合だって、簡単に斬り捨てちゃいけないよな」
「マイノリティを必死に否定するのは、格好悪いですね」
「閑話休題、ならばあのとき『恋人の目』がなければ、ハグはOKだったのか?」
「まあ」
「ほう! ならば早速!」
「きゃっ」

「んー!」
「ああ、なんて細い肩! 壊してしまいたい!」
「んー! んー!」
「どれ、お尻を揉んでみよう」
「んぐっ!」
「ぐはぁっ!」

「頭突きが! 顎に! クリティカルヒット!」
「……正当防衛です」
「ハグは平気で、おさわりは禁止と」
「胸とお尻を触られて平気な人なんかいません」
「そうなのか」
「そうですよ」

「支倉さん、セクハラは禁止ですよ」
2.????

 教室にて、白馬志貴。
「長峰鈴音にフラれてやんの!」
「なっ―――!」
「断らせる告白なんて最低ということは、つまりは成功させる気満々だったわけだ!」
 言い切った瞬間、口を塞がれ腰を抱えられ教室の隅っこに連行された。
 掃除ロッカーの中に押し込められる。自らもその内に入り、後ろ手で扉を閉める白馬志貴。
「はは、女子には触れないんじゃなかったのか?」
「そんなことは一度も言っていないし、君のことは女子だと思っていない」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
「なぜ君が告白のことを知っている!」
 ウィスパーでエクスクラメる白馬志貴。
 オレは手招きをして、耳打ちで真実を明かした。
「ぶっちゃけ尾行してた」
「一生の不覚!」
 絶望する白馬志貴。
 うなだれながら、彼は言った。
「長峰さんも、そうなのかい……?」
「ん?」
「弱味を握って、付け込んでいる?」
「ああいや、あの子は―――」

「オレが愛の告白を断ったんだ」
3.????

 長峰鈴音の家とオレの住む団地は、学校を挟んで反対方向にある。
 必然、帰り道のパートナーにはできない。そこでオレは三枝千種を羽交い締めにした。
「億千万円用意しろ! 自分の身柄は可愛いだろう?」
「人質に直接お金を要求する誘拐犯がどこにいるのよ! 財布は自宅よ!」
「そうか、払えないのか。ならば仕方ないな、身体で払ってもらおうか!」
「ひゃあっ、首を甘噛みしないで! 足を絡めないで耳に息を吹きかけないで!」
「ふふ、身体は正直だな。卑しいのはこの口か? おじさんの指をくわえるか?」
「がぶり」
「イターイ!」
 腕を放して、指をふーふーする。
 呼吸を荒げた三枝千種が、赤らめた顔でキッと睨み上げる。
「用件は?」
「とりわけなにも」
「なんの用もなしに人を玩具にしないで」
「用があれば玩具にしていいのか!? 玩具にしていいのか!」
「なんで二回言うのよ! 言葉の文よ!」
「それなら用を足そう」
「用件をプラスするという意味ね。なに?」
「今日は三枝千種の家に行こう」
「それはどうして?」
「行きはオレの家だったのだからして」
「屁理屈だわ」
「本音を言えば、お金持ちの昼食にお呼ばれしたい」
「ご期待に添えるとは思えないけれど」
「冗談、キミのご両親に―――」

「見た目はお嬢さまなのに!」
4.????

 鈴の音が聞こえる。
 目蓋を貫いたのは夏の燐光。
 耳朶を叩いたのは少女の声。
「狼さんの口はどうしてそんなに大きいの?」
「いや、それもう自分で答え言っちゃってるからな」
「あ、そっか」
 そしておはようのハグ。
 鈴の音が鳴り響いた。
「さて、今日の朝ご飯は?」
「サンマの塩焼きだよ。安かったの」
「あとはいつもの玉子焼きか」
「あ、今日はそれお休みなんだ」
「ほう! 珍しい!」
 いただきます。
 ごちそうさま。
「はい、お弁当」
「うむ、いつもありがとう」
「そんな、お礼なんて」
「そうだな。言葉ではなく行動で示そうか」
「行動?」
「日ごろの感謝を込めて、なにか商店街で奢ってやろう」
「え? えぇ? 狼さん、なにか悪いものでも食べたの?」
「おまえの料理くらいしか食べていないが」
「そ、そうだよね」
「どうしたんだ。嫌なのか?」
「ううんっ」
 鈴の音が三度鳴り響いた。
「行きたい。遊びたい」
「よしよし、犬みたいなやつだな」
「前は猫みたいって言ってたよ」
「そうだっけ?」
「うん。それで、いつ連れていってくれるの?」
「ああ、おまえは習い事で忙しいからな。こんどの日曜日は空いてるか?」
「うん。お昼なら平気。楽しみにしているねっ」

「あと六日!」
5.????

 昼休み、屋上にて。
 プラトニック・ダイアログ。
「今日は暑いね」
「そうですね」
「こんなに暑いのに、どうしてメイコちゃんは長袖なんだ?」
「暦の上では秋ですから」
「風紀委員長も大変ですな!」
 オレは春狩冥子の隣に腰掛け、幼馴染みお手製のお弁当箱を開けた。
 中身は玉子焼きオンリーであった。
「お米がない!」
「復讐弁当?」
「オレがなにをしたというのだ!」
 一パック丸ごと使われているプレーンオムレツ。
 せめてケチャップによるメッセージがあれば、味の足しにもなろうもの。
「うう……あいつこんど会ったら土下座させて小一時間ほど座布団にしてやる」
「お母さんになんてことを」
「これ作ったの母親じゃないよ!? 母親いないよ!」
「あ、ごめんなさい」
「お気になさらず!」
「それなら、年の離れた妹さんですね」
「幼女を座布団にするほど鬼畜じゃねえよ! 年の離れた妹もいねえよ!」
「なるほど、幼馴染みでしたか」
「む―――正解だ。惜しいな、ここで外したら三段オチになったのに」
「ええ―――殿方にお弁当を作らせるなんて、少女漫画みたいですね」
「男じゃねええええ!」
 失礼、幼馴染みと聞くと異性のそれを想像してしまうマイノリティにとらわれていました。
 少女漫画の読み過ぎですねと、彼女は言った。
「まあ、毎日起こしに来てくれて朝ご飯も作ってくれるんだけどな」
「漫画の世界の住人じゃないですか!」
「まさか。ちょっと他の女の子を抱いただけで嫉妬するような、現実味のある女だよ」
「はぁ、復讐の理由は分かっていたんですね」
「バレちゃった!」
 だから朝のオレは紳士的だったのだ。
 だから朝のあの子は慌てていたのだ。
「これで約束を反故にするのも可哀想だから、やっぱり座布団の刑だな」
「それはそれで十分に可哀想な拷問だと思いますけど」
「柱に縛りつけたまま彼女のベッドで眠ったことを話したら引くのだろうか」
「ちょっと離れて食べますね」
「風紀委員長にはそんなことしないよ!」
 幼馴染みは抵抗しないからエスカレートしていくだけだ。
 それも中学に入ってからは下り坂であることを、しかし彼女に明かせなかった。
 先にこんなことを言われたからだ。
「ボクは平気ですよ」
「ボク?」
「セクハラはダメですけど、そういうのは我慢できますね」
「すごい価値観だ。いや、そんなことより―――」

「キミ、男なの?」
6.SOS Sign

 三つ編み。眼鏡。膝が隠れるプリーツスカート。
 長袖の理由は、筋肉を隠すため?
「学年が違うから、オレはキミの席順を知らない」
 オレ女がいるのなら。
 スカートを穿く男がいてもいいということか。
「セクハラを禁止したのは、胸や股を触られたら困るからだな!」
 そしてオレは気が付いた。
 食パン、同じ通学路、遅刻寸前の遭遇。
「まさかあのときの絶世の美少年!?」
 オレは目を見開いて指を差した。
 風紀委員長はポカーンとしていた。
「あの、普通に女子ですが」
「騙されるものか!」
「人称代名詞がボクなだけで」
「騙されるものか!」
 オレは風紀委員長を抱きしめた。
 成人男性と成人女性ほどの体格差がある。必然、胸に顔を埋める形になった。
「んー! んー!」
 スカートからブラウスを引き抜いて。
 めくり、ブラジャーのホックを外す。
「んぐっ!」
「おっとぉ!」
 頭突きを回避する。反動をつけて頭を守りながら押し倒した。
 胸を離し、片手で鼻と口を塞ぎながら、もう片方の手でブラウスのボタンを外していく。

 瑞々しい膨らみに、ずれ落ちそうになっているブラジャー。

 衆人環視。
 オレは手を離した。
「ぷはぁっ」
 肩で息をする風紀委員長。
 十秒後。
「その、ごめんね? 普通に女の子だったね」
「ボクはあなたの性別を疑いそうです……」
「あ、確認してもいいよ!」
「胸の中に押し込められて、十分に確認できました」
「あはは。だ、抱き心地のいい頭だったよ?」
「いいから、どいてください」
 ずっとお腹の上に乗っかっていた。
 抱き起こして、石段の上に乗せる。
「お召し物の着付けを」
「自分でできますし」
「ですよね!」
「レイプ未遂のトラウマが」
「本当にごめんなさい」
「……別にいいですけど」
 そして。
 しかし、彼女は言った。
「やっぱり、責任を取ってください」
「責任?」
「はい」

「ボクと結婚してくれませんか」
(log3-4.html/8888-88-88)


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