梅
ログリバーシブル・リバース>ロマンシング・ダイアログ[前編]
Romancing Dialogue[A]
0.Eternal Reincarnation

 出逢いの形を邪魔された。
 あなたさえいなければ。
 運命の人を、見つけられたかもしれないのに―――
1.Fateful Reunion

 時計塔の針は逆巻き、LHR。
 学級委員長の雄叫びを聞き流して、我らが担任の教師は言った。
「今日は転校生を紹介する」
 どよめきの教室。事前に情報は漏れていないご様子。
「入りたまえ」
 扉を開くと、薄紅色の髪のご令嬢が現れた。
 運命を砕いた少女との、運命の再会であった。
「三枝千種と書いて、さえぐさ・ちぐさと読みます。よろしくお願いします」
 頭を垂れる。顔を上げる。
 目が合った。
 彼女と。
 そして―――
「ぷい」
 背けられた。
 こっちにも考えが生まれた。
「おまえはさっきの暴力女!」
「なっ―――!」
 どよめきの教室。情報操作とは正にこのこと。
 彼女に一目惚れしていた男子のフラグが折れる音がする。
「あなたって人はぁ……」
 チョークを手にするご令嬢、三枝千種。
 三本ほど指の間にセットして、裏拳の要領で投擲する。
「どこまで私の邪魔をすれば気が済むの!」
「痛い! 痛いよ! クリティカルヒット!」
2.Lottery Unbarance

 ついでに新学期でもあった。
 席替えのくじ引きが実行される。
「隣の席になれたらいいね」
「なれるわけないでしょ」
「だったら、誰の隣がいい?」
「そうね―――あの人なんて素敵じゃないかしら」
「白馬志貴か。あいつはやめとけ」
「どうして?」
「女子のパンツのことしか考えていない」
「…………」
 ジト目だった。信用が足りていない。
 オレはくじを引いた。
「五番の人が二十七番の人のおでこにキス!」
『王様ゲームじゃないでしょ!』
 三枝千種に小突かれて、白馬志貴に突っ込まれた。
 交錯する騎士と令嬢の視線。
 発動する運命の赤い糸。
「ねえ、支倉大神っていつもこうなの?」
「ああ、うん。セクハラ狼って呼ばれてる」
 かくしてふたりは隣同士の席になった。
3.Forever with You

 LHRが終わり、休み時間。
 三枝千種と白馬志貴のダイアログ。
「白馬くん」
「なに? 三枝さん」
「実はまだ教科書が届いていないの」
「それは大変だ。僕のを見せてあげるよ」
「ありがとう、白馬くん」
 乱入する支倉大神(オレ)。
「ちょっと待ったあ!」
「……なに? 大神」
「教科書ならアテがあるぜ。ちょっと待ってな」

 隣のクラス、長峰鈴音。
「なにも言わず教科書を全教科貸してくれ」
「うん、いいよ」
「隣の奴に見せてもらえばいい」
「そうするよ」

 舞い戻って、三枝千種の机に教科書を落とした。
「これで授業に集中できるね。ステキだね!」
「……机を寄せて、同じ教科書を使うトキメキの時間……」
「え? あんだって?」
「返してよ! 返してきてよ! 大神の―――」

「ばかぁ―――!」
4.Library Wars

 移動教室、図書室。
 オレは三枝千種の向かいの席に着いた。
「オレの為に本を持ってきてくれないか?」
「プロポーズ風に人をパシリにしないで」
「オレの為に盗みを覚えてくれないか?」
「なんで本物のプロポーズになってるのよ! 大変なものなんて盗まれてないわよ!」
「館内はお静かに!」
「ムキィー!」
 感情的になりやすい三枝千種であった。
 本当はお嬢さまではないのかもしれない。
「もう、相手にするのも馬鹿らしい」
「そう言って立ち上がる三枝千種」
「……ついでに持ってきてあげる。タイトルを言いなさい」
「図書室番号801−69を一丁」
「分かった」
 進み、本棚に添付された番号を頼りに歩く三枝千種。
 八百番台、オレの依頼した本棚に指を伸ばす。
『あ』
 指先は、近くの本を取ろうとした男子生徒の指先とぶつかった。
 本日三回目の運命の出逢いが発動する。
「ごめんなさい、お先にどうぞ」
「いや、三枝さんの方こそ、お先にどうぞ」
「うふふ」「あはは」
 薄紅色の空気を纏わせて、三枝千種は本を抜き出した。

 それは男同士が絡み合う赤裸々な官能小説であった。

 表紙には耽美的にして恥美的なイラストが掲載されている。
「…………」
「…………」
「あ、俺ちょっと父方の祖母が突然お腹痛くなって急用で……」
 去る男子生徒。
 本を戻し、足早に戻ってくる三枝千種。
 その纏いしオーラは薄紅色から真紅に昇華していた。
「いやあ、最近の図書室はなんでもあるネ!」
「っふふ、本当にそうね。チョーク千本飲ませてあげる★」
「別に嘘なんてついていないのに!」

「マズイヨー!」
5.Secret Seek

 授業が終わり、休み時間。
「三枝、トイレに行こうぜ」
「なんで私があなたと一緒に」
「ハンカチ忘れちゃった」
「……貸してあげるから、ひとりで行きなさいよ」
 ひとりで行ってきた。
 帰ってきた。
 両の頬を引っ張られた。
「暴力は服従しか生まないよ!」
「結構なことじゃない」
「それで、暴力執行の理由は?」
「……左隣の子が、ジュースをこぼしたのよ」
「ほうほう、それで?」
「彼のシャツが汚れたの。私はさっきまでハンカチを持っていた」
「なるほど、舐めとってみせたのか」
「痴女か! できるか!」
「自分のシャツを切り裂いて拭いてやったのか?」
「そこまで切羽詰まってない……」
「そもそもどうしてハンカチを持っていないんだ!」
「あなたに貸したからでしょう!」
 首を締められた。
 命乞いをするようにオレは言った。
「なあ三枝、おまえは―――」
「なによ」
「男が好きなのか?」
「質問の意味が」

「私はただ、見つけてみたい人がいるだけよ」
6.Interlude

 放課後の中庭。
 早咲きの曼珠沙華。
 その中に亜麻色の髪の乙女。
 幼馴染み―――長峰鈴音。
 彼女の目の前には男子生徒。
 見覚えのある後ろ姿。
「長峰さん―――」
 羨望のテノールで。
 秘めた想いを告げる。
「僕と付き合ってくれないか?」
 長峰鈴音は答えない。
 目が合った。
 彼女と。
 そして―――
「ごめんね。他に好きな人がいるんだ」
「……そっか。僕の方こそごめん、断らせる告白なんて最低だ」
「そんなことないよ。嬉しかった」
「……これからも、友達を続けてくれるかな」
「もちろんだよ」
「ありがとう、長峰さん」
 振り返り、舞台から退場する男子生徒―――白馬志貴。
 オレは草葉の陰から姿を現し、長峰鈴音と対峙した。
「見ちゃった」
「見られちゃった」
「モテモテだな、このぉ!」
「肘で胸を突かないで?」
「さらふわガードだな!」
「平然とお尻を撫でないで?」
「ひとつ聞きたいことが」
「なんでしょう」
「好きな人って?」
「……秘密」
「秘密太郎さん?」
「苗字じゃないよ」
「教えろよー」
「……そんな人いないよ。あれは嘘」
「なんだって! この狼少女め!」
「君に言われたくないよ」
「ふん、それならいいさ。おまえはずっと片想いでいろよな!」
「考えておくよ」
「あばよ!」
「ばいばい、狼さん」
7.Chrono Trigger

 上機嫌で階段を上っていると、上から少女が降ってきた。
 抱きとめる。上機嫌でなければできない力業である。
「大丈夫け?」
「あ……ありがとう」
 床に立たせ、ついてもいないスカートの埃を払う。
 自分の前髪をふぁさってから少女の顔を覗き見ると、少女は果たして三枝千種であった。
「暴力反対!」
「脈絡が」
「いまのはアレだろ? 抱きとめるのはオレじゃなく、どこぞの王子さまだったらよかったんだろ?」
「周りに人、いないじゃない」
「あれ?」
「あなたが抱きとめてくれなかったら、私は」
「あれれ?」
「助けてくれてありがとう、大神」
「どういためし?」
 一転する雰囲気。
 思い返せば、すべてのフラグを折ったあとで。
 運命が成立したのは、この瞬間が初めてだったのか。
「もしかしたら、あなたこそが運命の人なのかも?」
「なにをおっしゃるうさぎさん」
「だから他の人との出逢いを邪魔していたのね」
「キミがなにを言っているのか分からないぜ!」
「独占欲強いんだ」
「それは暗によく言われる!」
「ね、大神」
 それは恋の告白を妨害した天罰なのか。
 赤い糸は絡まり合って。
 そして不実のトリガーが引かれる。
「運命の糸を断ち切った、その責任を取ってよ」

「私と付き合って?」
(log3-2.html/8888-88-88)


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