梅
ログリバーシブル・リバース>プラトニック・ダイアログ[後編]
Platonic Dialogue[B]
0.Family Complex

 踊るリカちゃん人間!
1.Homeless Students

「おはようございます」
「あと三週間だけ寝かせてくれ」
「餓死りますよ」
 あれから。
 今夜は帰りたくないという風紀委員長を誘拐して、抱き枕にして眠った。
「朝ご飯、できてますよ」
「バカな、冷蔵庫の中には納豆のタレしか入っていないはず」
「冷凍庫の中には、お肉とパンと冷凍食品が入っていました」
「こいつは一本取られたね!」
 ちなみに冷蔵庫には牛乳も入っている。
 幼馴染みは大袈裟だったのだ。食材といえるものは、確かに冷蔵庫にはなにもないが。
「いただきます」
「めしあがれ」
「って一人前しか用意されていない!」
 働かざるもの食うべからず?
 確かに甲斐性なしの亭主関白だけどさあ!
「違いますよ」
「ならば昨日の復讐か!?」
「違いますってば」
「風紀委員会の顧問に言いつけて謹慎処分にするつもりだな……!」
「人の話は聞きましょう」
「裁判長!」
「これは、あなたの分ですよ」
「え? 自分のは?」
「人の食材を横取りするわけには」
「ややこしいことするなよ!」
 飢餓に溺れる略奪の縋り手。
 生命を分かつ独占欲のトラウマ。
「飢えた少女の前で貪るご飯なんか美味くないよ!」
「そんなことは」
「いいから食え! これは命令だ!」
「……分かりました」
 感謝の言葉と、食前のご挨拶。
 食事を摂りながらの、プルート・ダイアログ。
「家出をしてしまった以上、学校に行くわけにはいかないですね」
「そうなのか?」
「できることなら、ここから一歩も出たくありません」
「そうなのか。メイコちゃんがそう言うのなら、オレは構わないが」
「本当ですか?」
「ああ。学校帰りに買いものをして帰るから、それ以外の家事を頼もうか」
「はい。任せてください」
「いや、あるいは手足を縛って冷房もつけない部屋の中―――」
「まずはシーツを洗濯しましょう」
「逃げられた!」
 それから、食後のご挨拶。
 シャワーを浴びて、着替えを済ませる。
「それじゃ、お留守番を頼んだよ」
「はい。行ってらっしゃいませ、ご主人さま!」
2.????

 階段下にて。
 壁を背に本を読んでいると、鈴の音を鳴らして幼馴染みが現れた。
「狼さん、今日はずいぶん早起きなんだね」
「月一の階段掃除があったからな」
「……それって、いつもは八時からだよね」
「よく知っているな」
「いつもわたしが出ているんじゃない」
「そうだっけ?」
「そうだよ。それに、今日は火曜日だよ」
「今週の日曜日はみんな都合が悪かったんだよ」
「…………」
「そして平日は仕事や学校があるから、今日は六時四十五分集合だったんだよ」
「ふぅん……」
 疑いの眼差し。
 オレは幼馴染みのお口に焼けたパンを押し込んだ。
「むぐっ」
「ほら、早く噛めよ。一切れまるまる突っ込むぞ」
「ん……! んぐっ……!」
「飲み込みやすいように牛乳を注いでやろう」
「けほっ、んっ……! んぐ、ごくっ、ごくっ」
「よし、二切れ目を投入しよう」
「んんーっ!」
 涙目。首振り。鈴の音。
 彼女の口を押さえつけて、ついでに鼻もつまみながら飲み込むのを待った。
 二十秒後。
「ぷはぁっ!」
「なかなかの早食い」
「はぁ……はぁ……」
「牛乳を飲みなさい」
「うう……ごくごく」
「よし、飯も食ったし行くか!」
 オレは落ちていた幼馴染みの鞄を拾って先を歩いた。
 泣き顔で後ろを歩く幼馴染みに、オレは思い出したように言った。
「あるいは今日は日直なんだ」
「……最初からそっちの選択肢をとってくれたら」
「いや、それでも結果は変わらないぞ。部屋に上げる時間はないと言い張る」
「そうなんだ……。それならこれは、お仕置きなの?」
「お仕置き?」
「昨日のお弁当の」
「……ああ! うん、そうさ! これはお仕置きだったんだ!」
「それなら、よかったよ。もっと酷い目に遭わされると思っていたし」
「例えば?」
「土下座させられて座布団にされたりとか」
「エスパー?」
「跪いて足を舐めさせられたりとか」
「そこまでは」
「お弁当箱になぞらえて、スーツケースの中に閉じ込められたりとか」
「オレはおまえの想像力が怖い」
「全部狼さんにされたことだよ?」
「そうだった!」
 遅まきにして、自分はものすごく酷い奴なのではないかと思い始めた。
 今日のお弁当は普通だよと言って、手提げ袋を手渡してくれる幼馴染み。
「なあ、今日は中庭辺りでふたりきりで昼ご飯を食べないか?」
「え? いいの?」
「いいに決まっているだろう。男女の仲じゃないんだし」
「そうだよね。誰も文句は言わないよね」
「風紀委員長もいないしな」
「え?」
「同じクラスだった一年のときとは違って、オレはおまえと距離を置いたりしないぜ」
「狼さん……」
 幼馴染みは後ろから抱きついてきた。
 胸の感触が背中に染み渡る。疑いさえ抱けない豊かな実り。
「えへへ」
「にはは」
「最近の狼さんは、優しいね」
「行動原理は罪悪感からだけどな」
「いじめられていたときも、構ってくれていると思えば嬉しかったけど」
「爆弾発言だ」
「でもだけど、やっぱり優しくされる方が純粋に幸せだよ」
「幸福水準が愛玩動物レベルですな」
「ねえ、狼さん」

「大好き」
3.????

 そして時は動き出す。
 テーマソングになぞらえて、日常は軽やかに展開する。
 HRの一時間前に到着したオレたち。
 白馬志貴という先客。
 そして彼は日直当番だった。
 同じ出席番号の支倉大神もまた然りであると言う。
 オレは逃げ出した。
 仕事は長峰鈴音が引き継いだ。
 ひとり図書室の扉を開くと、三枝千種。
 運命の人は見つかったのかと尋ねると、あれから誰とも出逢っていないという。
 ふたり娯楽小説を読んで、教室に戻った。
 ホームルーム。
 授業が始まる。授業が終わる。
 授業が始まる。授業が終わる。
 授業が始まる。授業が終わる。
 授業が始まる。授業が終わる。
 昼休みになって、オレは幼馴染みを誘って中庭へ。
 お弁当を食べながら、ゲームの話で盛り上がった。
 幼馴染みは幸せそうだった。
 薄氷の上で踊っていることに気付きもせず。
 別れて、教室に戻る。
 授業が始まる。授業が終わる。
 授業が始まる。授業が終わる。
 同じ部活動に行く白馬志貴と長峰鈴音。
 オレは三枝千種とともに帰宅部の活動に勤しんだ。
 途中、商店街に寄りつく。
 少しの米と、肉と野菜と飲みものを買って家路に着いた。
 夕陽に焼かれる琥珀町団地。
 三枝千種に左手を振った。
 また明日。
4.Welcome to the NHK

 玄関を開けると、三つ指をついてご挨拶。
「おかえりなさいませ、ご主人さま」
「うむ、ただいま」
「ご飯にしますか? お風呂にしますか?」
「憧れの選択肢だ?」
「それとも―――」
「どきどき」
「トイレにしますか?」
「それは自分のタイミングで行かせてくれ!」

「そもそも、ご飯にする食材はオレの手の中に」
「がさごそ」
「あれ? もっと礼儀作法を気にする子だったような?」
「今夜は肉じゃがですね」
「料理人の腕を量るのにうってつけのレシピだな」
「そうですか? クリームシチューの方がソースの違いが」
「キミがなにを言っているのか分からないよ!」

「……一日中掃除していたのか?」
「まだ半日しか経っていませんが」
「すごいな。とても綺麗になった」
「それは久し振りに会った女の子に言ってあげてください」
「話を逸らそうとする姿は照れ隠しのそれであった」

「お風呂にしよう」
「まだ夕方ですが」
「帰ったらまずはシャワーなんだ」
「綺麗好きですね」
「身体を洗ったら、シャワーを抱えたまま空の浴槽で丸くなるんだ」
「あ、それ分かります」
「小窓から差す夕陽を浴びながら」
「幸福な感じですよね」
「そして背中越しに、野菜を切る包丁のメロディを聴きたい」
「……はい、任されましたっ」
5.Roll Player

 茜差す永遠の世界で。
 群青色のダイアログ。
「なんだか、夫婦みたいですね」「オレはメイドを手に入れた気分だよ」
「ボクはシンデレラの気分です」「シンデレラ姫は家事なんかしない」「そんなことは」
「確かにシンデレラ姫は二度と城下を歩けないのかもしれないな」
「そうですね。商店街育ちのボクの顔は、割と広いですから」
「どうして家出なんかしたんだ!」「それをいまになって聞きますか」
「刺されることを怖れないぞ」「包丁の出番は、もう終わりましたけど」「なんだそうか」
「本当は、学校に行きたくなかっただけですよ」「簡単に嘘をつくなよ」
「専業主婦になりたかったのです」「いままでは兼業主婦だったということか」「そうですね」
「家事のできる小さい子を見ると切なくなるな」「身長依存ですか」「体重依存だよ」
「ボクには、ふたりの義理の兄がいるのです」「義理の?」「義父の連れ子ですね」
「性別のリバーシしているシンデレラというわけだ」「ボクは女子ですけどね」「ボクっ娘め」
「お母さんの身体はとても弱いから、だからボクが全員分の家事を担うことに」
「なるほど、それはつらいかもしれない」「いいんです。甘えていることは自覚しています」
「虐待を受けているということは?」「お腹に痣はなかったはずですが」
「どうしてキミは長袖なんだ?」「暦の上では、秋ですから」「それだけか」
「それだけですよ。お行儀の悪い義兄と義父に対する、あてつけみたいなものです」
「なるほど分かった。しかしオレだってとてもお行儀のいい方とは」
「いえますよ。ご挨拶ができて、美味しそうに食べるのなら完璧でしょう」
「セクハラは」「禁止ですよ」「譲らないな」「当たり前です」
「専業主婦になりたかったのなら、しかし学校に行かなければ良かっただけでは?」
「そんなこと、許してくれない」「だから逃げ出したのか」「はい」
「それでも結局はオレにこき使われているのだから、大して変わらないような」
「そんなことは」「これはバッドエンドの世界なのではないだろうか」
「そんなことはありません。全然違いますよ」

「だって支倉さんは、ボクを犯したりはしないでしょう?」
(log3-5.html/8888-88-88)


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