梅
ログリバーシブル・リバース>ロマンシング・ダイアログ[後編]
Romancing Dialogue[B]
0.Promiced Ring

 うまれかわったら、けっこんしてくれる?
 ああ、やくそくするよ。
 ゆびきり。
 ……げんまん。
 うーそつーいたーらチョークせんほんのーますっ。

 ゆーびきった!
1.Morning Kiss Mint

「おはよう、大神」
「おはよう、鈴音」
「……鈴音?」
「おはようのキスをしてくれ」
「分かったわ」
「……え?」

「おまえは三枝千種!」
「む……掌で自らの口を塞ぐとは」
「何故ここに!」
「起こしに来たのよ」
「何故ここが!」
「白馬くんに聞いて」
「鍵はどうした!」
「かかってなかったわ」

「恋人は、一緒に登校するものでしょう?」
「だったら家の外で待っていてくれれば」
「待ってたわよ。だけどいつまで経っても出てこないから」
「……そうか。鈴音の奴、三枝の姿を見て先に行ったんだな」
「鈴音って誰?」
「オレの目覚まし時計だ」

「いま何時だ?」
「七時五十分」
「朝ご飯が食べられないじゃないか」
「そんなことないわよ。シャワー浴びてる間に用意しといてあげる」
「いや、冷蔵庫の中には納豆のタレしかないんだ」
「? それじゃ最初から食べるもなにも」

「歩いていってギリギリセーフね」
「よく分かるな」
「わたしの家も、ここから近いから」
「そういえば昨日も同じ通学路だったような」
「手を繋いで行きましょう」
「花咲く森の道を歩きましょう」
「うふふ」
「あはは」

「どうしてこんなことにっ」
2.Disciplinarian Gray

 手を繋いで歩いていると、見覚えのある後ろ姿。
 そこに見えるは屋上の少女。
 声をかけると、灰色の三つ編みを垂らしてご挨拶。
「おはようございます」
「やあ、おはよう」
「そちらは?」
「赤い恋人だ」
「めいたいこんにゃくみたいに言わないで!」
 博多名物に詳しい三枝千種が乱入した。
 お手々を離して、ご挨拶。
「初めまして、三年五組の三枝千種です」
「こちらこそ、二年五組の春狩冥子です」
「あなたは大神の?」
「真っ赤な他人です」
「がーん!」
 食べ物をお互いの口に入れる中なのに!
 しかして争いごとを避ける屋上の少女、春狩冥子は小さく呟いた。
「恋人同士なら、手を繋ぐことくらい自然ですね」
「どうしてキミがそんなことを?」
「風紀委員長なので」
「風紀委員長!」
 それはセクハラ狼にとって最大の天敵であった。
 諸手を上げて、無実を明かす。
「それでもボクはやってやる!」
 意表を突いて、春狩冥子に抱きついた。
 それはとても小さな身体だった。
「……アウトです」
「恋人の前で堂々とセクハラするなー!」
 三枝千種のアッパーカットが炸裂する。
 オレは吹き飛び、そして電信柱の裏に隠れていた幼馴染みを見つけた。
 スカートの裾を握る彼女に、オレは言った。
「見つけた」
「見せつけられちゃった」

「モテモテだね、狼さん―――」
3.Impoverished Aristocrat

 放課後。
 三枝千種の家に行こうという提案。
「それはどうして?」
「行きはオレの家だったのだからして」
「屁理屈だわ」
「本音を言えば、三時のおやつにお呼ばれしたい」
「ご期待に添えるとは思えないけれど」
「冗談、キミのご両親にご挨拶したいのさ」
「なにをしているの、早く行きましょう?」
「…………」
 そして来た道を戻る帰り道。
 再び琥珀町団地に辿り着く。
 通り過ぎることはなく。
「目指すは三号棟よ」
「え? あれ?」
「どうしたの?」
「三枝、団地暮らし?」
「そうよ」
「お金持ちじゃなかったの?」
「そんなことは一言も」
「見た目はお嬢さまなのに!」
「お褒めに預かりまして」
 階段を上り、三階三号室。
 扉を開くと、誰もいなかった。
「昼食は腕によりをかけて、そうめんを」
「肉を期待した舌に食べ飽きのそうめんは……」
「嫌なら飢え殺しても構わない」
「ゴチになります!」
 言質を取って、ロープを仕舞う三枝千種。
 キッチンに消える彼女を尻目に、オレは居間ではない部屋に侵入した。
 その六畳間は恐らく三枝千種のひとり部屋であると思われた。
「パンティーは、と」
 箪笥の引き出しを空けた。
 中には写真が入っていた。
 それは九十九枚の男子生徒の写真。
「はい、チーズ」
 パシャ。
「これで撮ったが百枚目」
「……これは元カレたちの写真か?」
「ええ―――」

「運命の人じゃ、なかったのよ」
4.Romancing Dialogue

 三枝千種の部屋に小さな卓袱台を置いて。
 昼食を摂りながら、ロマンシング・ダイアログ。
「結婚の前に、そのお試し期間として『恋愛』があるのだから、そこにあまり拘らない方がいいと思うのよね」
「具体的には?」
「恋人同士になったというそれだけのことで、昨日まで手も繋がなかった人と明日にはキスをするなんて―――言葉に踊らされているだけのような気がするのよ」
「明日の朝からキスをしようとしたキミが言うのか」
「あれはちょっとした冗談よ。打ち明けた話、あなたのことを恋人だなんて思っていないわ」
「ががーりん! 地球は青かった!」
 ショックを受けて、そうめんをすする。
 目玉焼きを裂いてトマトを貫く。
「だからファーストキスは、運命の人に出逢うまでお預けで」
「その運命の人というのはなんなんだ」
「……約束をしたのよ」
「約束?」
「生まれ変わったら結婚しようって」

「前世で」
5.Slope of Karma

 箸を落とした。
 急用を思い出す。
「目覚まし時計を叩き忘れた、取り急ぎ戻らなければあの子が……!」
「待ちなさい」
 ロープを取り出す。
 座り直した。言い分を聞く。
「言い方が悪かったわ。唐突でもあった。そうね、そういう夢を見るのよ」
 指切りげんまんの夢語り。
「だけど私は、困ったことに運命の出逢いが多すぎる」
 それはおよそ魔法と呼んでいい確率変動体質。
「九十九人の彼らは違ったけれど、あなたは前世の記憶を聞くまでもなく、違うでしょうね」
「それはどうして?」
「だってあなたは、大神は、ちょっと口調が乱暴なだけの―――」

「女の子、なんだから」
6.Reversible Sex

 灰色のウルフカットが鏡に映る。
 中性的とさえあまり言えない、一目で分かる女子の顔立ち。
「あなたとは、生まれ変わっても結婚できない」
「ひどいこと言われた!」
 意味を取り違えていると呟く彼女に、オレは言った。
「生まれ変わらないと結婚できないということは、同じ性別だったのか?」
「ううん。兄妹だったような気がする」
「気がする?」
「夢に見るだけで、記憶があるわけじゃないのよ」
「なるほどね」
「だからそう、非現実的な話であることは自覚できているし、妄想の類であることは半信半疑の疑が勝っているのよ」
「いや、オレは信じるよ。ちーちゃんの体質はそいつを見つける為に備わっているのだろう」
「ち、ちーちゃん?」
「それなら、別れようぜ。
 ああいや、そもそもオレはちーちゃんの告白に答えを返していないのか」

「友達から始めよう!」
7.Template of Triple Branch

 お見送り、階段下。
 ついでに買い物に行くという三枝千種は、しかしポケットをまさぐって立ち止まった。
「ハンカチ忘れちゃった」
「ああ、それならこのポケットティッシュをあげよう」
 ありがとうと受け取る三枝千種。
 それが壮大な伏線であることに、ふたりして気が付かなかった。

 しばらくして、ポケットからティッシュがこぼれ落ちた。
 通りすがりの英国紳士がそれを拾う。
「マドモアゼル、落としましたよ」
「あら、ありがとう」
 ティッシュには風俗の広告がプリントされていた。
 そういえば夜の歓楽街で配られていたティッシュだった気がする。
「……あ、ミーはちょっと祖国の祖父が頭痛で急用で」
 そそくさと退散する英国紳士。
 見届けて、三枝千種が足早に迫ってきた。
 その纏いしオーラは禍々しい赤と黒。
「いやあ、あの程度で引くなんて英国紳士の名折れだネ!」
「うふふ、本当にそうね。あらこんなところにチョークが千本」
「ねえ、どうなの!? 本当にあの英国紳士と結ばれたかったの!?」

「イタイヨー!」
(log3-3.html/8888-88-88)


/プラトニック・ダイアログ[前編]へ
Reversible Rebirth
プロローグ
エクローグ
ロマンシング・ダイアログ[前編]
ロマンシング・ダイアログ[後編]
プラトニック・ダイアログ[前編]
プラトニック・ダイアログ[後編]
ストロベリー・ダイアログ
リバーシブル・リバース[前編]
リバーシブル・リバース[後編]
オルタナティブ・ダイアログ
エピローグ
クロス・ダイアログ
プールサイド・ダイアログ