梅
ログオラクルウェディング>モノローグ-Super Family Complex-
Monologue-Super Family Complex-
  0

 好きな子に意地悪するというのなら、わたしはクラス一の人気者だ。

  1

 学校から帰ってきてすぐに眠り、目を覚ますと夜の十二時だった。
 シャワーを浴びてから、なにか軽いものでも作ろうとキッチンに向かう。
 暖簾を払うと、おじいちゃん。
 彼の性欲を満たしてから、同じ口でわたしは食欲を満たした。
 満腹の状態で再びキッチンに入り、白い柄の包丁を手にする。
 野菜を切り、
 手首にあて、
 零れた涙と一緒に、鍋に放り込んだ。
 今日の朝ご飯はクリームシチューだ。

  2

 幸福な時間の終わり。
 朝食を摂ってからシャワーを浴びて、男の子のような服装で外に出る。
 ランドセル姿で出かける限り学校以外のところには行けないので、お腹に力を入れて小学校に向かう。
 辿り着いてすぐに通り過ぎてしまおうと思ったけれど、
「おはよう」と知らない女子生徒に声をかけられたので、諦めて昇降口をくぐった。
 六年六組の教室に入ると、ふたりの男子生徒。
 わたしはなにも言わずに自分の席に着く。
 食材のことを考えて時間を潰していると、次第に人も増えてきた。
 中のひとりがわたしに声をかける。
「あのさ、あのさ、あとで中庭に来てくれない?」
 衆人環視の中、ひとりの男子生徒はそんなことを言った。
 愛の告白じゃね? と、ふたりの男子生徒は小さく笑った。

  3

「た、無料で抜いてくれるって本当?」
 男子トイレの個室で、彼はそんなことを口にした。
 そんなもの、たとえ有料だって嘘に決まっている。
 決まっているけれど、本当にしなければ彼らに殴られるのだろう。
「あっ、あっ、あっ」
 割と大きな声を出す男子生徒。
 彼はクラス中にからかわれている道化師で。
 クラス中にいじめられている人形より立派だけど。
「――――――っ!」
 彼が目を><の形にしているとき、外からクラスメイトの笑い声が聞こえた。
 きっとたぶん、ふたりまとめてからかわれたのだろう。
 なにも気付かないで幸せそうにしている彼が、少しだけ羨ましかった。

 口をゆすいで、彼のスラックスを穿かせてから外に出ると、女子生徒が立っていた。
 校門で挨拶を交わした人だ。
「月日さん。ちょっといいですか?」
 名札には、ふざけたことに「秘密」と書かれていた。

  4

「給食です。よかったらどうぞ」
「要らない」
「それはどうして?」
「不味いから」
「そうですか? それなら私食べますね」
「……どうしてわたしをここに連れてきたの?」
「あまり食事中にしたい話じゃないかも―――」
「帰る」
「あ、いえ! 超速で食べ終わりますので!」
「それでも食べるんだ」
「ぷはー。ごちそうさまでした!」
「美味しそうに食べるんだね」
「えへ。そういえば自己紹介を忘れていました」
「六年生の月日由未」
「五年生の秘密有希です」
「年下だったんだ」
「ええ。辿々しい丁寧語で失礼しますね」
「丁寧に扱わなくていいよ」
「それなら、由未ちゃん」
「なに? 有希ちゃん」
「由未ちゃんは被虐者なんですねっ」
「単刀直入だね」
「先生に助けを求めたりしないんですか?」
「……先生」
「なんならご一緒しますよ? こう見えても口は達者なので」
「腕は達者?」
「剣道を少し」
「そう、有希ちゃんは強いんだ」
「やー、私に期待されても」
「大丈夫。他人に助けて貰おうとは思わないよ」
「なかなか冷たいこと言いますな」
「……先生は、駄目なんだ」
「それはどうして?」
「先生がわたしを虐めた最初の人だから」
「―――嘘でしょう?」
「嘘を吐くほど大人じゃないよ」
「うう……少しばかり由未ちゃんの現状を甘く見ていました」
「それは嬉しいよ」
「質問を繰り返していいですか?」
「うん」
「どうして給食を食べないんですか?」
「唾とか、入れられるから」
「誰も助けてくれなかったんですか?」
「友達はみんな不登校にさせられるから」
「強い人が好きなのは」
「虎の威を借る狐を演じたいから」
「加虐者の数は」
「十六人」
「―――自信はありませんが、暴力で解決してみせましょうか?」
「他人に助けて貰おうとは思わないよ」

「わたしには、家族が居るからね」

  5

 学校から帰ってきてすぐに眠り、目を覚ますと夜の十二時だった。
 シャワーを浴びてから、なにか軽いものでも作ろうとキッチンに向かう。
 暖簾を払うと、おじいちゃん。
 なにかを探して彷徨っているように見えた。
「レンタルビデオなら玄関に置いてあったよ」
 言って玄関を指させば、わたしの頭を撫でてくれる。
 おじいちゃんの出て行ったキッチンで、白い柄の包丁を手にした。
 肉を切り、
 喉にあて、
 二日月のように笑って、野菜炒めを作った。
 官能的なシーンの挿入された映画を観ながら、おじいちゃんと一緒に食事を摂る。
「ねえ、おじいちゃん」
 青色の目を見てわたしは言った。
「大好きだよ」

  6

 そしてここからが復讐の始まり。
 フォルクスワーゲン・ビートルは時速百十キロで昇降口に突撃して、硝子や木片を舞い散らせて停止した。
 シートベルトを外して車を降りると、驚愕している教師の姿。
 おじいちゃんの手によって、壁に頭を打ち付けられて気絶した。
 一年一組の教室に入ると、いつだって早く着いているふたりの男子生徒。
 おいふざけんなよおまえこれなんの冗談だよあべしっ。
 いや違う間違えるなおれは悪くないあぶばっ。
 脆弱な小学生はドイツの元軍人の手によって呆気なく気を失った。
 ふたりの身体に悪戯をしようとするや否や、教室に侵入する先生方の姿。
 多勢に無勢。
 老兵は現役の教師に敵わなかった。
 おじいちゃんが捕まって、そのあとでわたしを捕まえようと教師の手が伸びる。
 女性の教師だったので、手を出さないことにした。
 二階の教室から飛び降りて、花壇に転がる。
 フォルクスワーゲン・ビートルを見た。
 教師が集まっている。
 ターゲットの数は三人。
 一歩踏み出そうとすると、左足を捻挫していることに気付いた。
 この身体はあまりにも脆すぎる。
 教師のひとりが近付いてくる。
 それはわたしに■■を飲ませた最初の人だった。
 言葉通り、最後の力を振り絞って。
 喉元に白い柄の包丁を突き立て、怯んでいる隙に彼の急所を蹴り上げた。
 それはわたしにのみ許された禁じ手だと思う。
 目を剥き出しにして倒れる教師。
 片足を庇いながらフォルクスワーゲン・ビートルに近付く。
 負けない。
 足りない。
 こんなものじゃない……!
「ぼ、僕が君を護るよっ」
 道化師が前に立つ。
 蹴り倒してこの稿を終える。
(log1-e.html/2004-03-02)


/アポローグ-Indignant Judgment-へ
Oracle Wedding
キャスト-Arrow&Bow-
スクールカレンダー(1999年)
インスタント・ダイアログ(1)
インスタント・ダイアログ(2)
インスタント・ダイアログ(3)
インスタント・ダイアログ(4)
モノローグ-Calling You&Me-
アーチャー・ダイアログ(1)
アーチャー・ダイアログ(2)
アーチャー・ダイアログ(3)
アーチャー・ダイアログ(4)
プロローグ-Eternal Triangle-
シスター・ダイアログ(1)
シスター・ダイアログ(2)
シスター・ダイアログ(3)
モノローグ-Super Family Complex-
アポローグ-Indignant Judgment-
ウェディング・ダイアログ
Ruby
無料-タダ-
立派-マシ-
被虐者-イジメラレッコ-
加虐者-イジメッコ-