カーネーション
ノベルKHM>子供たちが屠殺ごっこをした話
Wie Kinder Schlachtens miteinander gespielt haben
  1

 昔々の城下街、その郊外の公園で子供たちが遊んでいました。それは金髪の太った女の子と銀髪の痩せた男の子、赤髪の大きな男の子と黒髪の小さな女の子でした。四人は長い間楽しんだ魔女狩りごっこについに飽きて、新しい遊戯を考えようと話し合いました。銀色の男の子が言いました。「レストランごっこは?」その案はひとりを除いて賛成されました。金色の女の子が言いました。「あたしは絶対ウェイトレス」続けて銀色の男の子に「あんたはコックをやりなさい」と言いました。それを聞いて「それならおれは肉屋だ」と赤色の男の子が言いました。続けて「おまえは豚になれ」と黒色の女の子に言いました。黒色の女の子は首を振りました。無視して赤色の男の子は黒色の女の子の服を剥ぎ取りました。かくして役割が決まりました。豚の上に馬乗りになった肉屋にコックが話しかけました。「豚の爪をクダサイ」肉屋は頷いて、豚の手首を掴みました。ポケットから針を取り出して、豚の爪と皮膚の間に突き刺しました。豚は甲高い声で鳴きました。肉屋は針を缶切りの要領で少しずつスライドさせました。そのたび豚は喚きました。べりり。一番大きな爪が剥がれました。そのとき豚は一番大きな声を出しました。あまりにうるさかったので、肉屋は針を豚の左目に突き立てました。それで豚は静かになりました。肉屋は眼球の針を引き抜いて手早く前足の爪をすべて剥ぎました。「毎度」豚の爪十枚をコックの掌の上に注ぎました。コックはウェイトレスと一緒に自宅に戻って、豚の爪をまな板に乗せました。そしてそれに小麦粉と卵とパン粉を付けて熱した油に放り込みました。一方その頃肉屋はコックのいかなる要望にも応えようと、豚を縛り上げて木に吊したあとで、自宅から包丁や金槌、皮剥き器といった調理道具を持ってきました。肉屋が豚のもとに戻ると、豚は遁走しようと足を揺らしていました。頭を強く叩くと大人しくなりました。そのあとで皮むき器を胸にあてて、豚の乳首を削り取りました。豚は全身を揺らせて叫びました。無視して肉屋は両の乳首をもぎ取りました。そのときコックとウェイトレスが戻ってきました。コックが言いました。「もも肉」肉屋が豚の太ももに包丁を突き立てました。豚は下唇を強く噛んで、そこから血が滴り落ちました。「外もも」肉屋が吊した豚の後ろに回り、豚の尻を削ぎ落としました。豚はダレニモイワナイカラモウヤメテと鳴きました。「肩ロース」肉屋が金槌で骨を砕いてから肩胛骨の回りの肉を切り落としました。豚は声にならない声で喘ぎました。「バラ肉」肉屋が豚のお腹に包丁を刺しました。ところが刃は腹筋に絡まって途中で止まりました。仕方がないのでグリグリと捻るように押し込むと、包丁の刃は背中を貫きました。豚は息も絶え絶えにイタイタスケテオカアサンと喘ぎました。三種類の肉で満足したのか、コックとウェイトレスはまた自宅に戻りました。そこには揚げ終わった『豚の爪のフライ』を皿に移している母親が居ました。そこで母親に豚の肉を渡して『ポークソテー』と『ポークステーキ』と『生姜焼き』を作ってもらいました。母親は言いました。「ずいぶん筋の硬い肉ばかりだったけれど、貰いもんは貰いもん。譲ってくれた友達と一緒に食べなさい」弁当箱の中に白飯と一緒に詰め込んでくれました。ウェイトレスは「かしこまりました」と言って受け取りました。一方その頃、言われる前に解体してしまおうと肉屋は包丁を振り上げました。二の腕の肉を刮ぎ落としました。ふくらはぎの肉を抉り取りました。首の下に包丁を突きつけると女の子は、おっと間違えた豚はオニイチャンと小さく呟きました。不快に思ったお兄ちゃんは豚の首の下から穴の開いた腹部にかけてメスの要領で切り開きました。そこには心臓がありました。豚は血の溜まった左目とはガチャ目になるカタチで、肉屋の目を見ました。肉屋は豚の右目を金槌で潰しました。それで豚は静かになりました。肉屋は―――もういいや、男の子は女の子の心臓を掴みました。それは射精の瞬間のような恍惚の表情で、妹の心臓を引きずり出しました。そこで隣の家の姉と弟が帰ってきました。手には弁当箱を抱えていました。ところでお客さんという役割はありませんでした。女の子の肉は誰にも食べられることなく、やがて米と一緒に腐りました。

  2

 昔々の城下街、その郊外の農家で父親が豚を(これは本当の豚を)潰しました。それを三兄妹が見ていました。昼過ぎになって、子供たちで遊ぼうということになり、兄が弟に言いました。「おまえは豚になれ。ぼくがお父さんになるから」それから抜き身のナイフを取ると、それを弟の喉に刺しました。弟は豚のように暴れ回って、そして死にました。ところで母親は浴室に居て、赤ん坊の妹にお湯を浴びせていましたが、家具の倒れる音を聞いて慌てて居間に戻りました。そして弟の死体を見ると、母親は怒りの余りに兄の手からナイフを抜き取って兄の心臓を貫きました。それからすぐに浴室に戻ると、妹がお湯に溺れて死んでいました。絶望した母親は首を吊って死にました。改行改行、父親が畑から戻ると、みんな死んでいました。父親はいつか見た恍惚の表情で家族の心臓を抉り取りました。
(khm-b.html/2006-11-12)


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Kinder und Hausmarchen
Title
01 星の銀貨-Die Sterntaler-
02 ラプンツェル-Rapunzel-
03 兄と妹-Bruderchen und Schwesterchen-
04 ヘンゼルとグレーテル-Hansel und Gretel-
05 シンデレラ-Aschenputtel-
06 手なし娘-Das Madchen ohne Hande-
07 踊ってすりきれた靴-Die Zertanzten Schuhe-
08 森の中のおばあさん-Die Alte im Wald-
09 赤ずきん-Rotkappchen-
10 雪白と薔薇紅-Schneeweischen und Rosenrot-
11 狼と七匹の仔山羊-Der Wolf und die sieben jungen Geislein-
12 賢いグレーテル-Die kluge Gretel-
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