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Girl in the Box[First]
0 この物語はフィクションです。 実在の人物を監禁することは大変危険な犯罪行為なので、絶対にしないでください。 1 高校から帰宅すると、家の前に少女が佇んでいた。 身体は小学生のように小さいが、中学校の制服に身を包んでいる。 学生鞄の代わりに、革製の小さなスーツケースを両手で携えていた。 「うちになにか用?」 横から声をかけると、さして驚くこともなくゆっくりと振り向いた。 ウェーブがかった栗色の髪を二つくくりにして、胸元に垂らしている。 あどけない容姿とおぼろげな瞳が不釣り合いだったが、可愛かった。 「久しぶり」 「?」 そう言われても、僕は少女のことを憶えていなかった。 「6年振りだね」 「ああ、あのときの」 思い出した振りをして、僕は庭門に手をかけた。 「立ち話もなんだから、お茶くらいなら出すよ」 「いらない」 言って、彼女はスーツケースを地面に降ろした。 跪いて中を開けると、内側には洋服が入っていた。 使い方としてはこれ以上なく正しいけれど、容量は著しく余っている。 「お願いがあるの」 「なんだろう」 「わたしを誘拐して」 ローファーを脱いで、スーツケースの中で正座をする。 さながらダンボール箱の中に捨てられた子犬のよう。 「家族の人には言わないで、監禁して」 「意味が分からない」 膝を崩して、横向きに体育座りをするようにしてスーツケースに収まる少女。 布張りの箱の中、桜色の洋服に埋もれながら、少女は眠るように目を閉じた。 「こんなところ誰かに見られたらっ」 僕は少女を引っ張り出そうとしたが、少女は精一杯に抵抗した。 端から見たら、僕が少女を拉致しようとしているように見られかねない。 やむをえず、誰に見られてもいいようにと、急場凌ぎにスーツケースの蓋を閉じることにした。 「どうして僕がこんなことを……」 あと少しのところでつっかえたので、上から押し込むようにして蓋を閉じた。 留め具をかけると、少女の身体は手品のようにスーツケースの中に消えてしまった。 キャリーのないそれを持ち上げるのはさすがに軽いとは言えなかったが、無理ではない。 少女のローファーを僕の鞄に入れて、庭門を開ける。 芝生の上にスーツケースを置いてから、屈み込んで僕は聞いた。 「息はできているの?」 「うん」 見たところ蓋と壁の間には隙間が空いているし、気密性は高くないのだろう。 「頑張って身体を縮こめているみたいだけど、苦しくない?」 「別に平気」 面倒になってきたのでこのまま道ばたに放置しようかなと思ったけれど、 現実的ではないので諦めた。 こんな監禁ごっこ、少女の方からすぐにやめようと言い出すに決まっている。 「声を上げて、家族の前で助けを求めたりしないって約束できる?」 「うん」 「たとえバレたとしても、これは自分からやり出したことで僕は悪くないって、言ってくれる?」 「分かった」 「ならいいけど」 喋るのが億劫なのか、空気の無駄遣いができないのか分からないけれど、短い返事だった。 それでも約束は交わしたので、僕はスーツケースを持ち上げて備え付けのベルトを巻いた。 玄関の鍵を開けて、ゆっくりと扉を開く。 さてと。 2 「ただいまー」 小声で言って、音を立てないように玄関を閉めた。 靴を脱いで、部屋を目指そうとすると、2階から足音。 僕は慌てて階段下のクローゼットを開け、スーツケースを仕舞った。 後ろから声がかけられる。 「帰ってたんだ、おかえり」 「いま来たところさ。ただいま、妹」 「夜ご飯、できてるって」 「ああ。お腹もペコちゃんだし、すぐに行くよ」 居間に消える妹を見送って、僕はいつも通りに脱衣所で手を洗った。 廊下に戻るも、僕には「ただいま」を言わずに部屋に寄る習慣がない。 少女をクローゼットの中に置き去りにしたまま、僕は居間の扉を開いた。 「ただいま、母さん。それと……父さん」 談笑しながら食事を摂り、テレビを観て過ごして、家族がお風呂を済ませるのを待った。 妹が浴室に入ったところで冷蔵庫から麦茶を取り出し、居間を出る。 クローゼットからスーツケースを取り出して、後ろに怯えながら2階に上った。 妹の部屋の扉、僕の部屋の扉、トイレの扉。 鍵穴のない自分の部屋の扉を開けて、明かりをつけ、スーツケースを床に置いた。 「ふう」 腰を下ろして、ミッションの達成に一安心する。 戦利品は箱入り娘。 改めて見ると、なんて小さな箱だろう。 成長途上の少女とはいえ、中に人が入っているなんてとても信じられない。 身体を丸めてしまえば、人間の体積なんて大したことないと思い知らされるようだった。 「1時間も待たせたりして、ごめんよ」 尋常ではない狭さと音のない暗闇の中、 いつ解放されるかも分からないというのは相当なストレスなのではないだろうか。 僕なら恐らく5分でギブアップする自信がある。 これは躾で行うことの許されない、トラウマを残す虐待行為と言えるだろう。 「……っていうか、生きてる?」 返事はない。 これで窒息死されていたら洒落にならない。 慌ててスーツケースベルトを外して、留め具を外した。 わずかに膨らんだ蓋を持ち上げて、少女を光のもとに晒す。 「ん……」 まぶしそうに瞼を閉じる少女は、生きていた。 閉じ込めたときと同じ体勢で、窮屈そうに収まっている。 「僕の部屋へようこそ」 3 ようやっと光に慣れてきたのか、少女はぼんやりと瞼を開けて、起きあがろうとする。 身体が思い通りに動かないのか、悶えるように身じろぎしていた。 しばらく待つとゆっくりと起きあがり、眠たげな瞳で僕を見つめる。 「おはよう、気分はどう?」 「ドキドキする」 男の子の部屋に入るのは初めて、と少女は言った。 「……スーツケース詰めにされていた感想は、どう?」 「思ったより狭かった」 「身動きがとれないのって、つらくない?」 「うん」 それはどっちの。 「もう出してくれないのかもって、ちょっと考えた」 「それなら赤の他人に身体を預けるなよ」 「赤の他人?」 しまった、僕はこの子と知り合いなんだっけ。 忘れてしまっているけれど。 「そんなことより、麦茶飲む?」 「うん。ありがとう」 飲み終えて、立ち上がって、部屋を見渡す少女。 ベッド、テーブル、テレビ、本棚、ベランダを見つめる。 「ベッドの下かな?」 「いや、えっちな本の代わりならそこのノートPCが」 「わたしの監禁場所」 まだその遊びを続けるつもりだったのか。 「僕の部屋は鍵がかからないし、母さんも妹も入ってくるから無理だよ」 「スーツケースの中に入っていれば大丈夫」 「中身を聞かれたら」 「えっちな本って答えて」 勝手にそう思われそうな気はする。 「犬や猫じゃないんだから、隠して育てるなんて無理だって」 「犬や猫じゃないから、鳴いたりしないし散歩もしなくていいし、ご飯もたまにでいいよ」 できるだけ重荷にならないようにするから、と少女は言った。 「トイレとお風呂はどうするんだ」 「……おむつ?」 「そんなの、僕が嫌だよ」 幸か不幸か、トイレは僕の部屋を出てすぐ横にあるから、妹に注意すればなんとかなる。 お風呂は――― 「一緒に入ろ?」 4 実は僕も女の子でした、なんて叙述トリックでは断じてない。 再びスーツケースの中に入ってもらい、家族と鉢合わせないように祈って脱衣所まで運ぶ。 外に出してあげて、念の為スーツケースを収納スペースに隠してから、ふたりで浴室に入る。 少女は果たして、セパレートの水着姿だった。 「ですよね」 かくいう僕もトランクスの水着姿である。 新しく湯を張りながら、僕が身体を洗っている間に浴槽に浸かってもらった。 身体を洗い終えると、交代して僕が浴槽に浸かる。 することがないので、僕のシャンプーで髪を洗う無防備な少女の後ろ姿を眺めていた。 (あんなスーツケースに収まるだけあって、本当に小さな身体だなあ) 背丈が低いのもさることながら、骨格が違うのだろう、細くて薄い華奢な身体つきだった。 身長は145cmもないだろうし、体重は35kgもないかもしれない。 それでも、いわゆる貧相なその身体に僕は異性を感じていた。 背徳的な耽美さを感じる。 少女が身体を洗い終えるのを待って、ふたり一緒に浴室の外に出た。 脱衣所の鍵をかけて、バスタオルを取り出す。 いつもなら身体を拭いて腰に巻き付ける用と髪を拭く用で2枚のバスタオルを使うのだが、 母親が不審に思わないよう、1枚ずつ分け合って使うことにした。 少女の髪はそれなりに長いが、僕にはドライヤーを使う習慣がないので、 濡れた髪をまとめてタオルで巻いてもらった。 お互いに背中を向けて、パジャマに着替える。 スーツケースから歯ブラシを取り出した少女と一緒に、歯を磨く。 (こうしていると、まるで同棲しているみたいだな) 鏡越しに見える姿は、歳の離れた兄妹のようだけれど。 実際は誘拐に近いことを思うと、なんとも不思議な気持ちになる。 頭にタオルを巻いたままの少女をスーツケースに詰め込んで、 足音に気をつけながら部屋に戻る。 少女ひとり分の重さにもだいぶ慣れてきた。 無事に部屋に辿り着き、解放して、髪を乾かす続きをしてもらう。 そして。 5 僕が宿題をやっている間、少女は漫画を読んで過ごしていた。 そのあと一緒に対戦ゲームをプレイして遊んでいると、あっという間に夜も更けてしまった。 この間、あえて言わなかったけれど―――この子はどこで眠るつもりだろう? 「毛布と掛け布団のどっちかなら貸せるけど、問題は敷き布団だ」 「スーツケースの中で眠るから、いいよ」 予想外の返事。 「いや、いやいやいや、だってさっきの1時間でさえ苦しそうだったじゃん」 「苦しかったけど、我慢しなくちゃ」 必要もないのに、拷問に耐える覚悟を決める少女。 美しくはあるけれど、危なっかしい。 「僕と一緒に……」 眠るのは嫌? という聞き方は、女々しくて恥ずかしい。 「僕の抱き枕になってよ」 「抱き枕?」 「僕の睡眠を妨げないのなら、ベッドの上で寝てもいいよ」 謎の上から目線になってしまった。 少女は沈黙して、やがて首を縦に振った。 布団に入り、枕のちょっと下に横顔をつけて、ベッドの片側に陣取る少女。 掛け布団を羽織ると、身体は完全に隠れてしまう。 「ちょっとでも邪魔だなと思ったら、すぐに追い出してね」 「ああ、うん」 自分から提案しておいてなんだが、僕は少女を抱き枕にする権利を得てドキドキしていた。 スーツケース詰めよりはずっとマシな環境のはずなんだ、と心に言い聞かせる。 明かりを消して、少女の身体を跨いで、布団の中に入った。 少女の身体は省スペースなので、正直このままでも余裕で眠れるのだけれど――― 「抱き枕にしないの?」 少女は僕の役に立ちたいのか、そんなことを言う。 溢れる衝動に身を任せて、僕は少女の小さな身体を抱き締めた。 意識が大きく覚醒するほど衝撃的な快楽だった。 胸に顔を埋めさせて、暖かな吐息を胸板に感じる。 どんどん鼓動が早くなっていく。 足を動かし、太ももで挟み込むようにして、全身で抱き締めた。 少女は抵抗しないので、どんどん力を込めていく。 「我慢できなくなったら、ちゃんとタップするんだよ」 返事はなかったが、意思は伝わっただろうと、安心して少女の身体を抱き枕にする。 力加減がぜんぜん分からないので自分が気持ちいいように抱いているのだけれど、 たぶん身体は痛いのだろうし、相当に息苦しいのだろう。 新鮮な空気を自由に取り込めるという、その程度の環境に優越感を憶える。 数十分もそうしていると、少女の手が僕の背中に触れた。 「ん、ギブアップ?」 無理もないとは思ったが、それは違った。 ぎゅっと裾を掴んで、抱きついてきたのだった。 ◇ そして僕と少女の奇妙な共同生活が始まる。 (nn2-1.html/2011-11-05) /箱入り娘[D]へ |
Night Novel[2]
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