カーネーション
ノベルSS2>ノータイトル・エチュード
Cotelette
  ?

 エンドロール。
  夜明けのオクターブ。
 琥珀町を遊歩する。
  終わった舞台を闊歩する。
 始まりの舞台は商店街。
  桜並木の公園は枯れ果てて。
 琥珀町の中心、琥珀色中学校。
  文化祭一色に染められたお祭り会場。

 右手に見えるのは琥珀町団地。
  左手に見えるのは桜色病院。

 終わりの舞台は霧靄の森林公園。
  遊具という名の秘密基地を背景に。
 町営プールに繋がる道と、教会に繋がる道。
  後者を選んで―――

 烏山教会前のバス停に辿り着くと、霧靄は雨に変わった。
  されど今日が文化祭の日である限りは、通り雨に過ぎないのだろう。
 雨宿りに教会の軒先を借りようと、歩を進める。

  荘厳な門扉の前には見窄らしいダンボール箱。

 雌です可愛がってあげてください。

  ??

 教会の裏手には、同じ神父が管理する孤児院があると聞く。
  育児放棄をするつもりはあっても、死体遺棄をするつもりはなかったのだろう。
 ギャル文字で書かれた『雌です〜』の文字を見据えては、意を決して。
  ダンボール箱の、中を覗く。

 黒髪の赤子が、そこにいた。
  満一歳といったところだろうか。
 成長不良の印象は受けない。
  可愛らしい―――女の子。
 そしてその服装は、猫の耳。
  黒くて長い、猫の尻尾。

 鳴かない赤子を抱き上げてみれば、柔らかな体温。
  虐待の痕は伺えない。
 彼女はきっと、愛されて育った娘なのだろう。
  捨てられた理由は、母親にはないはずで―――

 その思索に意味はなく。
  彼女の母親の物語は明かされない。
 確かに言えることは、ダンボール箱に文字を筆記したのが母親本人であるということだけで。
  灰かぶり姫は―――居ないのだ。

  ???

 暖かな身体を抱き締めて、涙を流す。
  堰を切ったように涙を流す。
 生まれ変わりではありえないけれど。
  生まれた感情は、感謝であった。
 子供を捨てる倫理観なんてどうでもいい。
  ありがとう―――

 生まれてきてくれてありがとう―――!

  運命の流れを垣間見ては、永遠を感じる。
 雛鳥の呪いは正しく機能する。
  それはパートナーを幸せにする、しあわせうさぎの能力。
「俺がおまえを幸せにしてやる」
 「おまえが幸せでいてくれれば、それだけでいい……」

 夜が明ける。
  バスが来る。
 黒猫を抱いて、タラップを上った。
(ss2-31.html/2007-12-31)


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