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ノベル>SS2>掌を太陽に! | ||
We are not Alone
1 これまでのあらすじ! 遡ること二年前! 俺は高校三年生で、従姉妹は小学六年生だった! 同じ家で暮らすこと十二年の生活は、遠い大学に合格することにより終わりを告げる! 唇を尖らせて、体育座りで拗ねる従姉妹! 撫でようとした掌をはねのけられて、俺は同じ掌で彼女の頬を打った! 平手を握り拳で返す従姉妹! 取っ組み合いの喧嘩をしては、従姉妹の体術は大人を遙かに凌駕していたから! とはいえ体格の差が功を奏して負けることはないけれど、組み伏せることも叶わない! お互いに体力を使い果たすまで暴れ合い、大の字になって和解する! 「夏になったら、遊びに来るから」 従姉妹は黙して答えない! 代わりに! 小さな唇で、俺のおでこにキスをした! 見上げれば、白くて赤い君の笑い皺―――! 2 しかして二年後! 揺れる荷馬車の中、隣には『あらすじ』とは無関係の女の子! 眠り姫の名を欲しいがままに眠り、脳天気で無防備な寝顔を晒す! でこぴん! 「はうっ」 「寝るなよ。俺が寂しいだろ」 「揺りかごみたいで気持ちよかったので、つい……くー」 言っているそばからまた眠る。 俺は少女にアイマスクを被せて耳栓をして、包帯で両手首を縛りつけた! でこぴん! 「はうっ。ご、ごめんなさ……あれ? あれれ?」 なにも見えず、殆ど聞こえず―――慌てて首を振る少女。 不自由な両手を上げて、じたばたする。 「なっ、なんですかこれ?」 耳栓を外して俺は言った。 「愉快な誘拐犯だ。身の代金を要求する!」 「鐚一文どころか、返済に十六年かかる借金しかないですよう!」 合わせた両手を上げて、親指をこすりつけるようにしてアイマスクをずらす。 さらには首を使って器用に剥ぎ取った。 「はふう」 「暗いところは苦手?」 「窮屈なのも、苦手です」 言って、手首の包帯を見せつける。 されどアイマスクをつけて寝息を立てる俺には見えなかった! 「なっ、うなっ、自分は寝るなって言ったのに?」 「んー。それくらい自分で千切れるだろ?」 「え?」 互い違いに力を込める少女。 びくともしないらしい。 「や、無理ですよ?」 「非力な奴だな」 「解いてください」 俺は黙して答えない。 「解いてください」 ものの見事に無視をする。 「解いてください……」 覗き見れば、涙目だ。 なんて脆い存在だろう。 強くなって欲しくて、俺は眠った振りをした。 「ううー……」 懇願は通じないと見抜いては、諦めて包帯を囓りだす少女。 「苦い……」 悪戦苦闘にして七転八倒。 略して悪戦八倒。 「えいっ」 荷馬車は揺れる。 野を越え山を越え、町を駆ける天馬。 大きな橋を渡ったところで、 「―――解けたっ」 ついに巻かれた包帯が剥がされた。 ついでに目的地に辿り着いた。 3 バスを降りると、十階建てのワンルームマンション。 エレベーター付き! 「わー……」 そして長方形の箱船に誘われるは、高くて高い最上階! 天空の回廊を歩いては、角部屋へと辿り着く。 「天田……先輩?」 表札を見て、少女は言った。 「ああ。そう言えば自己紹介がまだだったな。俺の名は……」 「知っています」 「―――天田一弥先輩、ですよね」 「下の名前は、鳴海ちゃんから聞きました」 「そっか。先手を取られてしまったな」 言って、重たい扉を開ける。 中身はとても殺風景な我が城。 「ようこそ、そしておかえり!」 「今日からここが、君の根城だ!」 4 廊下があって、トイレとお風呂は別で、キッチンは部屋の中にある。 部屋の広さは八畳で、卓袱台があり、棚があり、TV台があって、布団が畳まれている。 とりわけ使う予定のない状況描写はこれくらいにして。 紅茶を沸かして、従姉妹の作ったサンドウィッチを食べる。 「美味しいです! 鳴海ちゃん、中学生なのに―――立派なお嫁さんになれますねっ」 「いや、あいつが作れるのは卵焼きとサンドウィッチだけだけどな」 「そうなんですか?」 見ていて愛らしくなるくらいに旺盛に食べながら、少女は言う。 「でも、愛情が込もってます」 中学生に込められるのは、愛情ではなく恋心の方ではないだろうか。 それはとても切なくて。 話題をそらそうと、俺は紅茶を口にして言った。 「食べ終わって一服したら、買い物に行くぞ」 「あ、はい。夜ご飯はなににしますか?」 食べながら食べ物のことを考えるとは、器用な奴である。 「……それは後回しだ。先におまえの布団と食器、あとは下着やらを買わないとな」 そう言うと、ようやくここに住むことをはっきりと意識したのか、逡巡する。 否―――口から出たのは、育ってきた環境の違いだった。 「いえ、確かに下着は欲しいですが、歯ブラシとかも欲しいかもですが―――布団は要らないですよ? 高い上に場所を取りますし」 「場所を取るもなにも、人ひとり眠るには必要な大きさだろう。 うちには予備の布団もソファーもないんだ。まさか同じ布団で眠る気か?」 その絵柄は、幼い頃の従姉妹と重なってしまう。 もちろん少女は、そんな貞操観念の薄い発言をしたわけではなかった。 「あ、いえ……座布団を貸してくだされば、拙者は座ったまま眠れる人なのでっ」 場所は取らないと、少女は言った。 説得しても馬鹿にしても譲らない。 子供扱いに慣れていないのだろう。 大人に扱われることに、慣れてしまったのだろう。 「……もういい、好きにしろ。ただしあとで欲しがったら、そのときは買ってはやるけど抱き枕の刑だからな!」 「はうっ。その発言はセクハラです、先輩っ」 少しだけ距離を置いて、置いた分だけ頬を赤らめる少女。 内なる衝動に従順で、同じだけ力強い従姉妹とは対極で。 自分の好きにできそうな少女の小動物性は―――扱いにくい。 遠慮の反動に、少女は言った。 「だからその……下着と食器と歯ブラシと、夜ご飯の食材を……買ってください」 「金のかかる女だな」 「はうっ!」 肩を縮めて、下がり眉の涙目で見上げてくる。 その被虐者っぷりに加虐心をくすぐられて、口の端を上げる。 「うー……」 元よりの正座に合わせて、手をついて。 「お願い……します、ご主人様……」 これ以上なく小さくなって、従姉妹の服で土下座する少女。 それを見て、いまさらながら正気に戻る。 俺は助けようと思った女の子を、なんてひどい目に合わせているのだろう……! 「おも、面を上げい!」 従い、顔を上げる少女。 寄り添って、その金色の頭を撫でてやる。 「ん……」 「ごめんな。おまえを見てると、何故か虐めたくなるんだ」 「…………」 なでなで。 「だから……」 続く言葉は、どうしよう。 逃げたくなっても、帰る場所はどこにもなく。 ひとりで生きる力もない――― 「だからその……」 「我慢しろ!」 「マゾになれ!」 とんでもないことを言う俺だった。 加えること、よりにもよって少女は―――頷く。 「分かりました……」 低いテンションで呟いたということは、嘘にはしないのだろう。 そして繋がりのないふたりの関係は、真っ赤な糸によって結ばれた。 作り物にして紛い物。 きっと代わりならいくらだって利く、相対性の関係性。 運命の物語が廻り始めるまでは、だから、弄ぼうと思った。 だって、ほら。 最後にはどうか、幸せな記憶を紡ぎたいじゃないか。 5 そして少女の意見を尊重して、布団の代わりに食材を買い込んだ。 夜ご飯を作ると言い張った少女は、手際よく食材を捌いていく。 鼻歌三丁、実に楽しそうに調理する少女であった。 その細腕の振るった肉じゃがは実に美味で。 「なっ、うなっ、こんな美味いもの食ったの初めてだ!」 「本当ですか? 嬉しいです!」 言って微笑む少女の顔には、なるほど長年培った自信が宿っている。 完全に侮っていた。 庇護欲と加虐心を刺激するだけが取り柄の、愛すべき子供だと思っていた。 なかなかどうしてやるじゃないか、料理屋で働かれたら自立できるかもしれない……! 「いえ、働くのは……難しいのです」 少女は開いたホッケをつつきながら言った。 「いつでもどこでも眠ってしまうきらいがあるので」 言われてみれば。 従姉妹と少女の出会い頭からして、彼女は水の底で眠っていた。 なるほど働くのは難しいだろう。 「ほう。ならばこの料理は、父親の為だけに振るっていたのか?」 「はい。といっても、こんなに食材に恵まれたことは殆どないので、料理とも呼べない裏技ばかりを磨き上げてしまいましたが」 ならばこその、その矮躯か。 満足に食べることができず成長が阻害されるのは、哀しくも痛ましい。 そして不幸せだった過去と同じだけ幸せそうに食べる少女が、愛くるして。 「月に三千円のお小遣いが、まさか食費とはね」 「えへへ。でもだけど、漫画を貸してくれる友達とか、ゲームに交ぜてくれる大きなお友達には恵まれていましたっ」 大きなお友達? 少女は続ける。 「でもきっと、わたしの人生、いまがきっと一番幸せなのです」 「鈴の音の髪飾りをつけられて?」 「はうっ」 天の声に逆らえず、買ってしまった。 少女はとても嫌がっている。 「……差し引いても、幸せですっ」 6 お互いの過去をゆっくりと融かし合って。 食後。 食器を洗い、お風呂に入って。 パジャマに着替えると―――クッションの上で眠る眠り姫。 卓袱台は片付けられて、俺の布団が既に敷いてあった。 「ん……」 目を覚まして、うろんな瞳はぐるぐると回り出す。 「あのっ、これはもしよかったらなのですがっ」 鈴の音が聞こえる。 「―――わたしを枕にしてくださいっ」 少女はよく分からないことを言った。 「え? なにそれ、なにかのプレイ?」 「や、その、なんといいますか……」 少女は箇条書きで説明する。 「柔らかいです!」 「はぁ」 「暖かいです!」 「ふぅん」 「気持ちいいです!」 「へぇ」 「いい子いい子、してあげます!」 「ほぉ」 「……しても、いいですか?」 「ああ。よく分からないけど、膝枕だろ?」 少女は安堵の表情を浮かべて、布団の上、枕の位置で女の子座りをする。 足を痺れさせてやろうとばかり。 それでもどかず虐め抜いてやろうと。 軽い気持ちで、頭を預けた。 「なっ……!」 途端、膨大な幸福感に包まれる! 楽園に辿り着きそうな超感覚! 少女は顔を覗き込んで、俺の頬を撫でた! 母の温もりを思い出すほど、気持ちいい……! 「いい子いい子」 言って、布団を被せてくれる。 少女は俺の両頬に手を添えたまま、目を瞑っては枕になりきる。 最後の力を振り絞って、俺は言った。 「明日!」 「はい」 「明日は六時に起き……くー」 少女は頷き、微笑んだような気がした。 「おやすみなさい……天田先輩」 1 海が聞こえる。 鈴の音は聞こえない。 遠ざかる荷馬車を見送って、少女は尋ねた。 「バスって、どこから乗ってもどこにでも辿り着けるものでしたっけ?」 「そこにコンクリートがある限り!」 海岸沿いを歩く。 右手には堤防と砂浜を。 左手には少女と街並みを。 「……懐かしくて泣きそうであります、先輩」 「いや、ほんの一週間前までずっと暮らしていたんだろ?」 「でもだって、もう二度と戻ることはないと思っていました」 震えた肩を見過ごして、歩を進める。 砂浜には仔猫に珈琲牛乳を与える童女の姿。 その黒い髪に見惚れていると、ふと袖口を引かれた。 「着きました」 振り向けば、五階建てのワンルームアパートメント。 その団地は予想よりとても小さくて。 錆びた自転車に錠はなく。 「エレベーターもなく」 「いい運動になるじゃないか」 「毎日三往復くらいすると、段々嫌になってもくるのです」 エレベーターのない団地育ちは引きこもりがちになると、少女は持論を展開した。 御託を流して、階段を上る。 空き部屋の目立つ、黄土色の団地。 「我が城です!」 表札の『綾鳥』を指さして、財布の中から鍵を取り出す少女。 解錠しては、軽い扉を開き放った。 扉の先には、父親の死体が…………! 2 あるわけもなく。 そして借用書もなくなっていた。 家具のひとつも失われた部屋を見渡して、俺は言う。 「この家から逃げたその判断は、正解だったみたいだな」 「……差し押さえたところで、きっと二束三文にもなりません」 随分と広く見える筈の空き部屋は、それでもたったひとつの六畳間で。 玄関の左右には、トイレとキッチンが六畳間に背中を向けている。 バスルームは確実にないだろう。 「えへへ。この団地は、古い工場の男性寮なんですよ」 「それは……初めて聞いたな」 「だって、恥ずかしいですからね」 そして少女は家賃を明かした。 毎日三往復の理由は『学校』と『買い物』と『銭湯』で。 日替わりのデートなら、いつだって銭湯を選ぶのだ。 「大抵は髪を拭いてあげてマッサージでもしてあげれば、優しく奢ってくれるのです」 言って、鍵をかけて玄関に座り込む少女。 座ったまま眠ることができる少女は。 だから、キッチンの横に置かれた座布団の上で眠っていたのだろう……。 「灰かぶり姫なんて居ないのに」 暖炉の煤に代わる虐待は、きっと灰皿の中身を被せられること。 継母もなく義理の姉もなく、少女は実の父親に蔑まれ続ける。 その起因と原因は、だから、少女の母親が死んでしまったことなのだろう。 「それならわたしは、眠ってしまいたい」 眠っているときの方が幸せで。 熟睡できないその姿勢は、毎回違った夢を見せてくれるから。 そして眠っている時間の方が長くなれば、君は簡単に世界を逆転できる。 「眠って……」 夢の中へと堕ちようとしている少女。 俺は女の子座りで俯く少女の傍に跪いて。 そのおでこに、でこぴん! 「はうっ」 「寝るな!」 「寝るのなら布団で寝なさい!」 3 金色の髪と、とても小さな裸足の指先。 ようやっと見つけることができた。 おまえがこの物語のシンデレラだったのか―――! 「いたっ、痛いです先輩……!」 力強く抱き締める。 彼女のすべてが愛おしい。 そして『王子』の役割なら、物語をハッピーエンドに導くことだ―――! 「なっ、うなっ、こんどは恥ずかしいです先輩! 先輩ってばぁ!」 俺は少女をお姫様抱っこにして、玄関を蹴破った。 階下には、直径十メートルのクッションを搭載した大型バス。 迷うことなく飛び降りた。 「うにゃああああああああああっ!」 ぼふんと舞ってノーダメージ。 バスに乗り込んでは、運転手に行き先を告げる。 ようやっと床に降ろされた少女の頭上には、大量の疑問符が浮かんでいた。 「先輩。先輩って、何者ですか?」 「金持ちのボンボンだよ。バスをハイヤーにできる程度の、ね」 そして運転手を務める執事を紹介したあとで。 着席を促しては、『大家』の家を目指す。 少女は少し怯えていたけれど。 「荷馬車に揺られるドナドナの気分です」 「それはそれなら、これは翼を得る為の物語だ」 宣言に従って、物語は一気に加速する。 辿り着いた大家の家で契約解消の手続きを行っては、社員の名刺を手に入れて。 刻まれた住所を辿って、金融会社に辿り着いた! 「綾鳥家の借金を返済しよう! キャッシュで!」 『連帯保証人でもないのに、恋人の借金を肩代わり! 泣かせるねェ!』 「任せろよ。ところでひとつ尋ねたいんだが、それでこの子の父親は見つかったのか?」 『いや、それは無理だよ少年。夜逃げを追うのは難しいんだ。記念に彼の写真をあげるから、本気で見つけたいのなら捜索願を届けることをお薦めするね』 対応は少女の望むように。 グリム童話のシンデレラなら、偽物の家族に復讐を願ったけれど。 転生した灰かぶり姫は、果たして父親の写真を―――受け取った。 「家には写真なんて一枚もなかったのに」 『融資の際は写真を撮るのがウチの決まりなんでね。だけどまあ、返して貰ったからにはもう要らない。 いままでご利用ありがとう。これからは、こんなところに足を運ばず―――幸せになれますように』 「こちらこそ―――いままでありがとうございましたっ」 頭を下げて、別れ合う。 帰路、警察署に立ち寄って捜索願を届けた。 少女は思い出すように父親のパーソナリティを告げる。 「連絡先は俺の家で構わない」 『君の家? もしかして、同棲しているのか?』 「当たり前じゃないか」 「この子はもう十七歳なのだから」 4 海を照り焼く紅色の太陽。 陽炎揺らめく瑠璃色の地球儀。 風情としては完璧の、潮騒の音を聞きながら。 夕暮れどき。 砂浜にて。 ふたり肩を並べて、対話する。 「先輩」 「なんだ?」 「先輩って、何者ですか?」 「医大生だよ。両親共にドクター。希望は小児科かな」 「なるほど―――」 「それがどうした?」 「―――いえ。貴族とか言い出さないで、安心しました」 「甲斐性のない奴が嫌いなわけだ」 「あう……そういうわけではないのですが」 「お父さんみたいな人は、シマウマがどうのって奴でして」 「苦手なのですっ」 「トラウマな」 「あっ、そっちですね! それいけウルトラマン! あははははっ」 「もうなにがなにやら……!」 「だから先輩、わたしを雇ってくれませんか?」 「話がすごく飛んだ!」 「料理と掃除と洗濯と、あとはマッサージが得意です!」 「……つまりは瀟洒なメイドになりたいわけだ」 「はいっ。日給は千円でいいです!」 「六百万貯めるのに十六年かかる計算だな」 「要するに借りを返したいということか?」 「瀟洒というよりは、殊勝な心がけといえるけれど」 「いえ、現金で返していない時点でかなりの駄目人間なのですっ」 「はっ、それもそうだな。自らの食費も考えていなければ、病欠の可能性も考慮していない」 「はうっ……」 「利子も考えていなければ、お小遣いも考えていない」 「お小遣いは……別に」 「なにより俺の気持ちを欠片も汲み取っていないじゃないか……!」 「メイドだから他に彼女を作っても構わない一夫多妻性とか!」 「お嫁さんじゃないから大切に扱われなくてもいい隷属性とか、そんなものは求めていないんだ!」 「…………」 「真っ赤な糸なら、断ち切ろう」 「先輩……」 「俺はおまえに愛されたいよ。後ろに流れる物語なんて関係ない。 お金で繋がる関係なんて最悪じゃないか。 運命なんて関係なく、俺はおまえに愛される努力を続けたい。堕落したくないんだ!」 「だから、おまえが望んだ永遠は忘れて―――イチから!」 「俺と付き合ってくれ―――!」 岩を打つ高波。 染めた頬を夕焼けの所為にして。 少女は、彼の頭を撫でることを答えにした。 なんて―――視点が三人称になるくらいに昂揚してしまったのさ。 おしまい。 5 おまけの物語というか、張り忘れた伏線。 ヒロインに対する虐待も孕みつつ。 時間軸は逆巻いて、同日、午前五時五十五分。 「あれ?」 いつの間に眠っていたのだろうか。 疑問符を浮かべながら布団を畳んでいると――― 「おはようございますっ」 新聞を抱いて、知らない少女が頭を下げた。 渡されたものを受け取ると、キッチンからは鮭を焼く匂い。 「まだ六時には五分だけ早いですけど、ご飯にしますか?」 「ああ、うん」 生返事を与える。 それで満足したのか、少女は鼻歌を唄いながらキッチンへと入っていった。 俺は卓袱台を広げて、TVを点ける。 「お待たせしましたっ」 お盆に食事を載せて再登場する少女。 よくよく見れば、その服装は従姉妹のもので。 「それでは、おあがりくださいなっ」 言って、座布団の上で頭を下げる少女。 三つ指をついて―――丸くなる。 ただでさえ小学生のように小さい少女は、我が家のクッションと変わらない大きさになって。 だから。 寝惚けて。 座ってしまった! 「ふにゃあっ!」 後頭部に尻を乗せて、どっしりと腰を下ろす。 太ももで少女の全身を挟み込んでは、眼下には少女の背中と小さなお尻。 正確に言えば、その大半は金色の髪で覆い隠されていたけれど。 「あのっ、重いです先輩……!」 座布団越しの声はくぐもって聞こえない。 俺は卓袱台を寄せて、食事を開始した。 幸福感に満たされる、温かな食卓。 「ん……息が……!」 座布団越しの呼吸はくぐもって、その吐息は次第に熱くなる。 押し潰されては、圧倒的に呼吸の量が追いついていないのだろう。 だっていうのに少女の抵抗は冗談のように弱々しくて。 だから、本当は大して嫌がっていないのだと解釈した。 「う……うぇ……」 ニュース番組は今日も人を殺す。 占いの結果は、恋の告白を推奨した。 そういえば最近映画館に行っていない。 「んー……!」 そんな感じで、七時十五分。 おもむろに立ち上がって俺は言った。 「ごちそうさま!」 ウィンクを飛ばす。 「ね、寝惚けていたのでは!?」 「いや、こんな清々しい目覚めは実に久し振りだよ」 「先輩って……サディストの人ですか?」 「まあね!」 「はうー……」 距離を置いて、小さな身体を抱えて震える少女。 その目は少しだけ赤く染まっていて。 「あのっ、できるだけ殺さないように気を付けてくださいね……?」 そんな物騒なことを口にした。 打ち明けた話。 俺は単に土下座をされたくなかっただけなんだけどね。 6 「夏祭り?」 「はい。新聞受けに入っていました」 少女からビラを受け取る。 そこには花火大会をメインに据えた夏祭りのアレコレが書かれていた。 「冷めてる……」 一方、眉を下げながら朝食を摂る少女。 孕む罪悪感と嗜虐心は同じくらい。 「悪かったって。そうだな、お詫びにこの夏祭りに連れて行ってやろう」 「本当ですか!?」 目を見開いて、驚いてみせる。 その仕草は従姉妹の飼い犬にそっくりであった。 「打ち上げ花火って、見たことないんですよ。楽しみですっ」 「へえ、意外だな。俺はてっきり焼きそばが食べたいのかと」 「うー……出逢いの初印象が最悪です……」 言って、彼女は食事を再開する。 家に来てから食べる量は実に慎ましやかなもので。 プールでの暴食は、だから、しばらく飢えないように『頑張った』のだろう。 「あのときは、とにかく炭水化物とカロリーが欲しかったのです」 「それなら、こんどはタコ焼きからイカ焼きからお好み焼きまで選び放題だな!」 食欲魔犬にされている気がすると呟いて、されど少女は喜んだ。 食べることを特別に喜ぶ子は、あまりにあまって可愛らしい。 「ごちそうさまでしたっ」 手を合わせて目を瞑る少女。 お盆を持って、キッチンへと消えていく。 愛を込めて食器を洗う少女。 あふれ出る幸福感に、俺は永遠を錯覚する。 「絶対に、おまえを幸せにしてやるからな」 呟いて。 これで言い残したことならなにもない。 仮初めの関係に甘んじるのはこれまでで。 本当の気持ちを伝えるのは、これからだ――― 0 その果てに。 こんな呪われた童話が用意されているなんて、知りもせず。 (ss2-27.html/2007-12-27) /クロノ・クロスへ |
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21 クロノ・トリガー-Ievan Polkka- 22 物の怪クダン-I've Been Working on the Railroad- 23 イノセントマリオネット-Orphee aux Enfers- 24 赤犬のワルツ-Minute Waltz- 25 月姫のタンゴ-Libertango- 26 海鳴りの詩-Soap Bubbles- 27 掌を太陽に!-We are not Alone- 28 クロノ・クロス-Oklahoma Mixer- 29 インフェルノフェスティバル-Mayim Mayim- 30 まつりのあと-Auld Lang Syne- 31 ノータイトル・エチュード-Cotelette- EX 原曲一覧-Original Title- EX キャスト-Crossing- Character List 天田一弥-アマダ・カズヤ- Ruby 瀟洒-ショウシャ- |