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ノベルリレーノベル>カモンベイビー★クリスマス>ファントム・サンタクロース
Phantom Santa-Claus
ファントム・サンタクロース晴一時雨さん
 そもそもサンタクロースなんているワケないし。どうせ父さんと母さんが僕に内緒でプレゼントを買ってきてくれているんだ。子どもの行動範囲、行動時間なんて、大人のそれに比べたらひどく劣る。僕の見えないところでプレゼントを買っておくなんてことは、難しくも何ともないはず。
 だいたい何で毎年欲しいものが、赤の他人であるスコットランド人だかフィンランド人だかに判っちゃうんだよ。子どもの考えを遠方から読み取るなんて・・・テレパシー?いやいやいや、たとえテレパシーなんてもんがあったとしても、全世界の子どもの欲しいものを全部読み取って集計して答えの確認して、あぁ、もういったいどれだけの時間がかかるんだよ。それに心を読むだなんてプライバシーの侵害だ!もしかして、手紙?親の密告?!個人情報の流出だ!どちらにしてもプライバシーの侵害だ!
 そう思っているけど、僕は純真無垢な男の子。サンタクロースを信じて疑わない、イブの夜はいつも直ぐ眠くなる、健全な男の子なんだ。勿論その裏に親の顔を立ててやろうなんていう邪な思いはない。「今年はあれをサンタさんに貰うんだ!」とか親の前で言ったり、余高価なものを選ばないようにしたり、それはたまたまなんだ!
 ・・・親はやっぱり気付いていないだろうって思ってるのかな。だからと言って親だっていう確信があるわけじゃないんだけど。イブの夜に枕元でゴソゴソやっても寝返り一つ打たずにに音がしなくなるのを待ってるからさ。見ないんだよね、そっち。でも、ねぇ、親だよねぇ。子どもの夢を壊さないようにする親と、親の思いを裏切らない子ども。なんてお互いを思いやりあっている家族!


 そうこう考えながら、また今年も早めに布団に入る。そう、本日はクリスマスイブ。トナカイの引くそりに乗るという、なんだかよく判らない飛行方法を使って来襲する白髭の男が、子どもたちにプレゼントを配る日。勿論煙突なんか必要ない。現代のサンタクロースはハイテク技術でどこからでも家に忍び込めるのだ。多分。
 僕の通例行事、「イブの日は早く寝る」が行われると、親はおそらくリビングあたりでコソコソと話し合いを始めるのだろう。彼らは僕が毎年狸寝入っていることを知らない。12時頃に階段を上がる音。扉が開き、枕元でゴソゴソと音がする。そして扉が閉まり、階段を下りる音。隠れ通例行事、「その間寝たフリをすること」。毎年やっているから、狸寝入りが妙に上手くなってしまった。将来的に要らなくなるスキルと、要らなくなる人間は早めに切り捨てる。これ、鉄則!!と、どっかの社長がテレビで吼えてたなぁ。


タン、タン、タン、タン、


 時計を見た。午前0時7分。しまった!いろいろ考えていたら12時を過ぎていた。何てこったい!マンマミーア!早く狸寝入りモードを作動しないと、僕の10年計画が破綻の一途を辿ってしまう!急いで掛け布団に身体を鼻の辺りまで埋もれさせて、プレゼントを入れる巨大靴下(紙製)とは逆の方向を向いて寝息を吐き出した。
 扉の開く音がする。ヒタヒタと近づいてくる音がする。ゴソゴソと何かを漁る音がする。僕はただひたすら寝息じゃない寝息を吐き続けていた。けど、一向にガサガサゴソゴソといった物音がやんでくれない。おかしいなぁ。僕が今年"サンタクロース"に頼んだのは、子どもらしくゲームソフト。THE SIMPLE 2000の地球防衛軍2だっていうのに。親思いで涙が出るというのに。いったいいつまでそれが詰められないでいるんだろうか。靴下、ゲームソフトなんか余裕綽々で入るよなぁ。ま、まさか、勘違いしてなんかこう地球防衛軍変身セットみたいなのを・・・?やめ、やめて!"サンタクロース"よ、お前は間違っている!
「ふぅ」
 とか考えていたら、音がやんで溜め息が聞こえた。その溜め息を吐いた"サンタクロース"は、そっと呟いた。
「メリークリスマス、かずみくん」
 ゾクッとした。父親の声では無かったのだ。母親の声でもなかったのだ。ということはお化け!とうとう僕もお化けというものに遭遇したのだ!非科学の結晶!オカルトの象徴!この眼でそれが確認できるなんて!正体は何だ?柳?風で揺れた白い布?あ、実は泥棒だったっていう線もあるなぁ。やばい、ドキドキしてきた!
 僕はワクワクしながら意を決して起き上がり、声のしたほうを向いた。
「お前は誰ぇー・・・誰、だ?」
「えっ・・・・・・!?」
 サンタクロースルック。赤い服。袖と襟に白いモコモコ。帽子の先には白い玉。腹まで伸びた白い髭。雪だるまのような体格。背負った大きい袋。
「サンタクロース・・・・・・」
「そ、そう、サンタクロース!」
「のお化け?」
「は?!」
 その男は僕の問いに声を裏返させて答えた。そうか、正体を見破られて焦っているな?でも何でサンタクロースルック・・・・・・コスプレ?
「あー、やばいなこれ、見られちゃったなー」
 男は面倒くさそうに顔をしかめると、僕の頭をポンポンと2回叩いて、何事も無かったかのように部屋を後にした
「待った!」
 そうに見えたので、あらかじめそれを言葉で阻止した。
「動かないで!動いたら父さんと母さんを呼ぶよ!」
 気分は犯人を追い詰めた敏腕刑事。やい、手を上げろ。銃を離せ。動くなよ。よし、そうだ、銃を下に置け。バキューン!させねえよ。俺を欺こうったってそうはいかねぇ。お前は俺に勝てねぇんだ。大人しく手を上げたままこっちへ来い。そうだ。いいぞ。頑張れ。頑張って。そこに立て。そこに立って。立った。立った!クララが立った!ペーターも立った!おじいさんも立った!卑猥!・・・あれ?
「あのね、かずみくん、こんなことしても無駄―――」
「おとーーーさーーーーーん!!おかーーーさーーーーーん!!」
 容赦はしないんだ。ましてや正体不明のサンタクロースのコスプレをしたお化けだ。隙を見せたり、少しでも歩み寄ろうものなら、憑かれたり、下手すると呪い殺されるかもしれない。呪殺か・・・。響きがカッコイイなぁ。
 僕の声を聞きつけた父さんと母さんが、急いで階段を上ってきて、勢いよく扉を開けた。
『あっ・・・』
 お化けと両親の眼が合った。これはもう一生見られないレアな光景かもしれない。ただでさえお化けなんていないのに、それと両親の眼が合うなんて!その上サンタクロースのコスプレだなんて!!Merry Christmas!神様、僕に取って置きのプレゼントをありがとう!Jesus!Oh my god!
「今年は君だったんだね」
「すいません、息子さんに見られちゃいましたー」
「いいさいいさ。さ、下で一杯どうよ?」
「マジっすか!徹さん、真衣さん、ご馳走になります!」
 笑いながら部屋を出て行った3人に、僕のデリケートな精神構造は崩壊を起こしそうになった。
(rn1-1.html/2005-12-25)


/ブラッディ・サンタクロースへ
Come on Baby★Christmas
Title
01 ファントム・サンタクロース
02 ブラッディ・サンタクロース
03 サンタコロース・シンアシン
04 ホワイト・サンタクロース
EX あとがき座談会
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