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ノベル>リトルプラネット>ロミオとジュリエット | ||
Prologue
0 「おおロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」 (ロミオとジュリエット|シェイクスピア) 1 ロミジュリこと『ロミオとジュリエット』といえばバルコニーの上下の対話ばかりが有名で、ふたりの年齢、馴れ初め、そして関係を知る人は意外と少ないように思う。例えば僕は知らない。知らないので知っている台詞から連想するしかなく、概ね悲劇であるというイメージから具現化するしかない。 知っている台詞。 「おおロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」 そして概ね悲劇であるというイメージ。確かふたりは親の手によって引き裂かれたはずだ。それなら答えは明白にして簡潔、きっとロミオは平民の息子でジュリエットは貴族の娘だったのだろう。貧富の差から引き裂かれる恋人たちの物語は何度も目にしてきた。それがありふれた設定である以上、雛形は四百年前で正しいはずだ。 それは青い月の夜のこと。 バルコニーの上で、ジュリエットは言った。 「おおロミオ、あなたはどうしてロミオなの? あなたに富さえあるのなら、あなたに名声さえあるのなら、私たちは幸せになれますのに」 それを聞いて、バルコニーの下のロミオは言った。 「ああジュリエット、それは間違えている。富と名声ばかりが幸福の種ではないのだ。おまえが家さえ捨てるのなら、おまえが名前さえ捨てるのなら、僕はおまえを幸せにしよう」 この言葉にジュリエットは戸惑ったが、しかし彼女は愛情というものに飢えていたので、名残惜しそうに部屋を見回したあとで首を縦に振った。 「飛び降りてごらん」とロミオ。 純白の柵に足をかけて。 ロミオの胸をめがけて。 ジュリエットは飛んだ―――と、まあ、こんなところだろう。そして『富と名声』を捨てたふたりの駆け落ちが始まる。平民であるところのロミオの収入は知れたもので、令嬢であるところのジュリエットの生活力は想像を絶するものだった。 ふたりは喧嘩を重ねながら貧民街を生きていく。 とはいえ、この物語が概ね悲劇であるという前提条件ならば、その生活は幸せなものだったのだろう。富と名声ばかりが幸福の種ではなかったのだ。ロミオの言葉は意外なことに本物で、ジュリエットは貧しいながらも幸せになった。 されど幸せを噛みしめる時間は、あまりにも短い。 深窓の令嬢は、病弱であるが故の純粋培養だったという話。貧民街での生活に、ジュリエットは病気を患った。それは身体を蝕み、心ごと死に向かうという不治の病。だっていうのにロミオは気付かない。それもそのはず、ジュリエットは自分の病を伏せて気丈に振る舞ったのだ。空虚の延命より、僅かでもロミオと共に居ることを願った。 それは青い月の夜、バルコニーから飛び降りたその瞬間から決めていた終焉。 そしてロミオが気付いたときにはもう手遅れで、残された時間はあとわずか。強烈な痛みと恐怖、不快感の中で、それでもジュリエットは笑っていた。ロミオの腕の中で逝けるのならこんなにも幸せ。最後の対話。遺言は「愛してる」。 そしてジュリエットは死んだ。 されど悲劇は止まらない。 ジュリエットの病気は人に感染するもので、彼女と共に生きることを選んだロミオは同じ病に冒されていた。そのことをジュリエットに悟られないように振る舞ったロミオは、彼女の有終の美を飾る為、自らはひとりで死ぬことを選んだのだ。それは孤独。けれど後悔はしていない。 そしてロミオはひとりで死んだ――― 2 ロミジュリこと『ロミオとジュリエット』といえば、どうだろう、中学生の演劇としては少しばかり取り扱いの難しい作品であるように思う。彼らは演出以前に『脚本』に手を加える癖がしばしば見られるが、しかしその元の『脚本』が公に知られていないのだ。原作を知らない二次創作を面白いと感じることができるのは、少数派と言っても過言ではないだろう。 そう天文部の部長に伝えると、彼女は眼鏡のレンズを拭きながら言った。 「これは二次創作じゃなくて焼き直しなの。脚本に手を加えるんじゃなくて、一から脚本を作るというわけ。だって式ちゃん、ロミオとジュリエットを観たことないでしょ?」 僕は首を横に振った。部長は続ける。 「残念ながら私は観てしまった。その悲劇を知ってしまった。だから脚本は、地球儀式ちゃん、あなたが書いてね」 望遠鏡のレンズを拭きながら、部長はのたもうた。 「タイトルは『ロミジュリ・ミレニアム』。子供中心のこの世の中で、なにもかもを許されたこの現代で、しかし引き裂かれるふたりの話。もちろん天文部は私と式ちゃんのふたりしか居ないから、そのつもりで書くこと」 請け負ってもいないのに条件を提示する部長に、僕は言った。 「請け負ってもいないのに条件を提示する部長、僕は脚本なんて書けないよ」 「脚本なんて誰にでも書けるわよ。それに二度目になるけれど、天文部は私の式ちゃんのふたりしか居ないのだから、推薦されたらそれは絶対なのです」 民主主義にも社会主義にも反する新政党の部長に、僕は意地悪なことを言った。 「……それならロミオがジュリエットを絞殺する脚本を書いてくるね」 「いいよ。式ちゃんが死ねというのなら、私は笑って死んであげる」 僕の冗談をより深い冗談で返して、結局僕は演劇の脚本を書かされる羽目になってしまった。正直に言えばそんなことをしている場合ではなく、しかし時間だけは有り余っていたので、手遊びに脚本を書き進める日々が続く。 それでも、間に合わなかったけれど。 部長は、月輪真宵部長は、笑って許してくれた。 (lp1-0.html/2006-09-14) /赤い流星群と毒のミサイル |
Little Planet
Character 地球儀式-チキュウギ・シキ- 月輪真宵-ツキノワ・マヨイ- Ruby 純粋培養-ヒキコモリ- 少数派-マイノリティ- |