梅
ログリバーシブル・リバース>セックスレス・ダイアログ(前編)
Sexless Dialogue(1964)
Sexless Dialogue[1]
「初めまして」
『なにを始めるんですか?』
「は? いや、挨拶だよ挨拶」
『あー……初めまして、です』
「っはは、面白い子だね」
『いえ、面白くあろうとしているだけです』
「あははっ」
『なので笑ってくれる人は、好きですよ』
「えっ?」
『ずっと前から好きでした。私と付き合ってくださいっ』

「っはは、喜んで」
『……あれ?』
女の子を笑わせてあげるのが、男の子の甲斐性。
Sexless Dialogue[2]
『私の名前は向日葵です』
「ひまわり?」
『と書いて、ムコウアオイと』
「へえ。綺麗な名前だね!」
『からかわること幾千夜ですが』
「そうなんだ。じゃ、呼ばないようにするね」
『…………』
「葵ちゃん?」
『……向日葵って、呼んでください』

『馬鹿みたい……』
「え、俺のこと?」
『私のことです』
男の子の話に笑ってあげるのが、女の子の器量。
Sexless Dialogue[3]
「でも葵ちゃん、背、低いよね」
『中学三年生で百五十四センチは低くもないです』
「そうかなあ?」
『先輩は私をチビと呼びたいだけですね』
「別にチビだなんて……」
『豆と。ガキと。ロリータと』
「呼ばないよ」

『私はそう呼ばれたいのにっ』
小さい子は、それを武器にした時点で効力を失うのでしょう。
Sexless Dialogue[4]
『理科の授業は、とても楽しい』
「へえ。頭いいんだね」
『寝言は寝ても言わないでください』
「えー」
『……世界は循環していると、先生は言いました』
「うん。世界?」
『その図式。太陽からは……宇宙からは、与えられる一方でなにも返してない』
「へえー。そうなんだ」
『世界が循環しているのなら、私たちはなにかお返しをしなければいけないという話です』
「お返しって」
『……きっとそうだと思うのです』
知識量もなければ頭も悪くて、だから僕の話なんて聞かなくてもいいのに。
Sexless Dialogue[5]
『靴下を脱ぎっぱなしにするなという話です』
「ああ、ごめん」
『別に。私の家じゃ、ありませんから』
「そうだね」
『……私の家になる日は、来るのかな』
「え? 地上げするの?」
『ああ、馬鹿みたい……』
かみ合わないのは怖いこと。
Sexless Dialogue[6]
「靴下を脱ぎっぱなしにするなという話です」
『……私の口調、真似しちゃダメです』
「なんで?」
『なんだか、バカにされてるみたいです』
赤ちゃん言葉なんて、くだらない。
Sexless Dialogue[7]
『夜眠る前に、死ぬということを考えますね』
「あ、うん! 怖くなるよね」
『でも……子供を産めば、それも和らぎますね』
「え?」
『子供の中に私が残れば、私は永遠に続くのでしょう』
「ああ……なるほど」
『だから私は、子供が欲しい』

「子供にコピーを与えても、オリジナルであるきみはやっぱり死ぬんじゃね?」
『…………え?』
「っはは、言ってみただけ」
僕が考えていたことなんて全部お見通しで、とぼけていたんじゃないのかなあって。
Sexless Dialogue[8]
「進路希望用紙」
『……勝手にプリントを見ないでください』
「第一希望は……お母さん?」
『中学生にありがちな冗談ですね』
「うん。こういうのはまずいって」
『大丈夫です。それはコピーで、本物はもう提出しました』

「え、じゃこれ」
『あなたに見せるために置いておいたという話です』
セックスレス・カップル曲解。性行為を必要としない、カップル。
Sexless Dialogue[9]
「今年もよろしくお願いします」
『任されました』
「……こちらこそ、じゃなくて?」
『間違えました……』
子供のような彼氏彼女。
Sexless Dialogue[10]
『湖のベンチで待ち合わせ』
「お金を使わないデートだね」
『お金で繋がる関係なんて、くだらないものばかりです』
「うん。俺たちは身体で繋がっているからね」
『……言葉で繋がっていると勘違い』
「ああ、失言」
『男女の差異を見てしまいました』
「きみがしっかりした女の子なだけさ」
『まさか。道化の華も、いいところでしょう』
「向日葵なだけに?」
『適当にものを言うのはよくないという話です』
本当になるからね。
Sexless Dialogue[11]
『辿りつきました』
「徒歩十分じゃん」
『先輩を、先輩と呼んでもいい場所まで』
「ああそっち。言っても、俺は来年卒業だけどね」
『したら私退学します』
「いやいやいや!」
『嘘です』
「……まあ、葵が十六になったらそれもいいけど」
『……あれ?』

『先輩が気の利いたこと言いました……』
「空を見るな。雨は降らない」
十八と十六で結婚して、六十年を共に過ごしましょう?
Sexless Dialogue[12]
『好きでもないのに付き合うのは、最悪です』
「いや、好きだよ。葵の身体は最上級だ」
『……ロリータ・コンプレックスですか』
「心を見てとか、そういう返事を期待してたんだけど」
『身体を褒められて喜ぶのは、当たり前のことです』
「それはなにより。よし、乳揉ませろ」
『だめです』
「お姫さま抱っこさせろ」
『いいですよ』
「境界線がよく分からないね」
『大人扱いするなという話です』
男女が分かり合えないなんて、お互いに言葉足らずなだけでしょう。
Sexless Dialogue[13]
『女性が僕と歌うのは、格好良いですね』
「ああ。浜崎あゆみとか?」
『ええ。サウンドホライズンとか』
「誰それ?」
『秘密です』
「えー」
『……それでも、どうして日常で僕と言うと痛いのでしょう』
「あー……。だってオタクっぽいじゃん」
『それは漫画に僕と名乗るキャラクターが多いから?』
「え、いや知らないけど」

『私が僕と称したら、あなたは遠ざかりますか?』
「別になんでもいいよ」
『……それなら、言いません』
裏切って、魅せたかったのに。
Sexless Dialogue[14]
『手を繋ぎましょう』
「いいけど、好きだね」
『好きな振りをしているだけです』
「それを言っちゃ……」
『嘘です。好きです。触れることも、あなたも』
「にわかには信じられないね」
『…………』

『信じて、くれましたか?』
「……うん」
身体を使わないで、いつまで居られるかな。
Sexless Dialogue[15]
『私は、子供』
「子供だね」
『違います。母親です。……子供が、欲しいです』
「ああ……欲しいね」
『本当ですか?』
「うん」
『怖くないですか?』
「うん?」
『あなたの子供が欲しいと言われて、怖くないんですか?』
「怖くないよ。俺だって欲しいし」
『……し?』
「……葵のような奥さんが欲しい」

『この、ロリコン』
「えぇっ!?」
不思議ちゃんと呼ばれた彼女は、なんて賢しいのだろう。
Sexless Dialogue[16]
『初めまして』
「男性器に挨拶しない」
『……男性は息子と呼んだりしますね』
「ん、あぁ。あと俺自身とかね」
『きっと言葉にするのが恥ずかしいんですね』
「そうね」
『男性のそういうところ、かわいいと思います』
「うん」
『えっちなのはいけないと、』
「ねえ葵」
『なんですか?』
「少し黙れ」
『……………………はい』
真剣にセックスをする男ほど、責任を取らないくせに。
Sexless Dialogue[17]
「……あのさ」
『…………』
「気持ちよくない?」
『……どうして?』
「なんていうか、喘がないから」
『……黙れって言われました』
「えっ? いや、そういう意味じゃ」
『怖かった……』
「ごめん!」
『なんて、冗談です。喘いだ方がいいですか?』
「……いや、無理にしてもらうことないけどね」
『……それなら、黙ってますね』
「いいけど。痛かったら言いな」
『ダメです。我慢します』
「……男はそういうこと言われるといじめたくなるんだけど」
『……知ってますよ?』
「男は」とくくって、結局それはあなたの性癖。
Sexless Dialogue[18]
『受験戦争ですね』
「だね。うん、ごめん」
『なにが?』
「最近逢えなくてさ」
『別にいいですよ。大学行く人の邪魔しないです』
「そう言ってくれると助かるけど」
『ただ……先輩は、進学するんですね』
「え? そりゃあ、ねぇ」
『裏切り者ですね』
「え?」
『私のことです』
高校生の物語は、できれば避けたいところです。
Sexless Dialogue[19]
『先輩』
「なに?」
『最近素っ気ないですね』
「えぇ?」
『味も素っ気もないですね』
「そんなことないけど」
『三点リーダー二つ、忘れてます』
「いや訳分からないし」
『この喧嘩も予定調和なのでしょうか』
「自分でふっかけておいて、なにを……!」
セックスするまでの課程を大切にする男の子と、セックスしたあとの家庭を大切にする女の子。
Sexless Dialogue[20]
『告白しますね』
「愛の告白?」
『少し黙ってください』
「…………うん」
『私たちは、セックスをしました』

『子作りをしました』
『再三しました』
『快楽に溺れるように』
『避妊もせず』
『馬鹿みたい……』
『私のことです』
『あなたのことです』
『お金もないのに』
『大学に行くくせに』
『十八と十六なのに』
『子供ができました』
『こどもが、できちゃいました』
『こどもを、おろしました』
『こどもを、ころしました』
『わたしはひとごろしですね』
『ばつのないつみなんてない』
『こどものうめないからだになりました』
『でも、ぜんぜんたりない』
『ゆるされない』
『しけいですよね』
『わたしのことです』
『あなたのことじゃ、ありません』
『わたしはひとりでしにましょう』
『あなたには、じゆうを』
『あたらしいれんあいを』
『さようなら』
『さようなら、さいあくのかれし』
セックスレス・ダイアログ。
(log6-1.html/2005-11-14)


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