梅
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Marionet Dialogue
Marionet Dialogue[1]
「おはよう!」
『…………』
「教室一番乗りだね!」
『…………』
「きっとひとりが好きなんだね!」
『…………』
「僕、出て行くね……!」
『……待って』

『…………』
「え、それで放置プレイ?」
マリオネット・ダイアログ。
Marionet Dialogue[2]
「出席番号順だと、隣の席なんだね」
『…………』
「僕は地球儀式。よろしく」
『…………』
「……ははっ、男と握手なんて嫌だよね?」
『…………』
「それなら、名前だけ教えてくれる?」
『……月日由未』
潔癖症候群。
Marionet Dialogue[3]
「出席番号十三番、地球儀式です! みんなヨロシク!」
『…………』
「次、君の自己紹介の番だよ?」
『…………』
「…………」
『…………』
「出席番号三十三番、月日由未です!(裏声)」
『…………』

『……さっきはありがとう』
「お礼を言われるとは思わなかった!」
六年三組、一学期。
Marionet Dialogue[4]
「委員はなにがいい?」
『……保健委員』
「へえ。なんか意外だね」
『…………』
「すいませーん、僕と月日さんは保健委員に立候補で!」
『…………』

『怪我をしている人は、好き』
「初めての読点付きの台詞がそれ!?」
エンゼル・フィッシュ。
Marionet Dialogue[5]
「好きな教科とか、ある?」
『……家庭科』
「嫌いな教科は?」
『……体育』
「そっかー」
『…………』
「僕は君のことが好きだよ!」
『わたしはあなたのことが嫌い』
両思い。
Marionet Dialogue[6]
「給食の時間だ! 神よ!」
『…………』
「……月日さん、意外とよく食べるね?」
『…………』
「僕の分も食べていいよ!」
『……駄目だよ』

『好き嫌いは、駄目』
「君に言われたくないぞー!」
カミーユ。
Marionet Dialogue[7]
「九頁を朗読しなさい―――先生はそう言った」
『…………』
「黙りこくった月日さんに、先生は動揺を隠せない!」
『…………』
「先生! 体調が悪いので保健室に行ってきていいですか!?」
『…………』

『……力強く言う台詞じゃないよね』
「なにか言った? 保健委員の月日さん」
ぺたぺた。
Marionet Dialogue[8]
「ここまででいいよ。実は仮病だったんだ!」
『…………』
「教室に戻りなよ。僕は屋上辺りでサボってるからさ」
『…………っ』
「! ど、どうしたの! 僕の胸元に倒れかかったりして!」
『体調が…………』

「三十七度八分!」
『…………』
病人の口数。
Marionet Dialogue[9]
「それはつまり、月日さんは高熱だったから無口だったのか」
『すー……すー……』
「それなら僕は、余計なことばかりしていたのかもしれない」
『すー……すー……』
「喋らない君はとても魅力的だったけど、それは男の醜い欲望だよね」
『……………………』
「ゆっくりお休み、月日由未―――」
『……待って』

『ひとりは、嫌い……』
「起きていたのか! 超恥ずかしい……!」
保健委員の地球儀くん。
Marionet Dialogue[10]
「もう放課後だし、家まで送るよ」
『…………』
「歩くのは遅いんだね。歩幅が狭いからかな」
『…………』
「月日さん、小さいよね。百三十五センチくらい?」
『…………』
「って、家でかっ! ここって長峰さん家のお屋敷じゃん!」
『…………』
「え? 上がっていいの? お邪魔しまーす!」
『…………』
「? どうしたのさ、顔を赤らめたりして」
『…………』

『今日、誰も帰ってこないんだ』

『…………』
「…………」
『だから看病して欲しい』
「あ、ああ! なんだ! 任せてよ!」
純真無垢。
Marionet Dialogue[11]
「おはよう!」
『…………』
「あれっ!?」
『…………』
「言葉は失われたままなのか……!?」
『…………』

『どうしてわたしの家に居るの?』
「記憶の方を失っていましたか!」
キューブ。
Marionet Dialogue[12]
「月日さんの料理、涙が出てきそうになるほど美味しいね……!」
『…………』
「みんなにも食べさせてやりたいよ」
『…………』
「決めた。こんどの日曜日、月日さんを誘拐しよう!」
『…………』

『…………』
「無言で百十番しようとしないで!」
看病のお礼。
Marionet Dialogue[13]
「依然として月日さんの声は戻らないままだった」
『…………』
「きっと声を誹謗されたとか発言を中傷されたとか、そういうトラウマがあるに違いない」
『…………』
「いじめられっ子になるその前に! 取り除くぜ三点リーダー!」
『…………』

『……喋るのが面倒なだけだよ』
「ん? いまなんか言ったよね、なんて言ったの?」
『…………』
「大切だったっぽい言葉を聞き逃した! 僕の馬鹿!」
夜明けのオクターブ。
Marionet Dialogue[14]
「料理を作らせたあとでなんだけど、まだ微熱はあるんだよね?」
『…………』
「うん。それなら今日は休まないとね」
『…………』
「電話貸してくれる?」
『電話……』

『電話線、外してあるの』
「さっきの百十番は偽装だったのか!」
電話は嫌い。
Marionet Dialogue[15]
「僕も休むよ。なにしようか?」
『……眠る』
「なに言ってるのさ。休みなんだよ? 遊ばないと!」
『…………』
「あっ、お弁当作ってね!」
『…………』

『面白い人』
「少しずつ君の趣味が分かってきたよ」
隷属は―――嫌いじゃない。
Marionet Dialogue[16]
「映画館!」
『…………』
「美術館!」
『…………』
「プラネタリウム!」

「こんなに長いこと喋らなかったのは久しぶりだよ!」
『十分喋ってたよ』
ネコソギラジカル。
Marionet Dialogue[17]
「小学生の楽しみは、買い食いにあるよね!」
『…………』
「お薦めはなんと言っても肉屋の五十円のハムカツ!」
『すみませんコロッケみっつと、それからハムカツふたつください』
「! いま! 普通に! 喋った? まさか! 錯覚? えぇー!?」
琥珀町商店街。
Marionet Dialogue[18]
「夕焼けか……」
『…………』
「…………」
『…………』
「…………」
『……あの』
「…………」
『嫌になった?』
「…………」
『…………』
「……はっ、寝てた!」
『…………』
「え? 月日さん? なんで蹴るの? 痛いってばさ!」
沈黙は―――鈍色。
Marionet Dialogue[19]
「君は人の目を見てばかりだね」
『…………』
「僕は人の目を見ていられないんだ」
『…………』
「病気かな」
『……大丈夫』
「みんな自分のことに精一杯で、人の仕草なんて見ていないかな?」

「あっ、いま大丈夫って言ってくれたよね! なんでそこで理由を聞かなかったんだろう僕の大馬鹿!」
『大丈夫……』
道化師と人形。
Marionet Dialogue[20]
『いじめられたことがあるの?』
「……ないよ」
『人との対話が噛み合っていないように感じているの?』
「……うん。そうだ。その通りだ」
『それならそれは大丈夫だよ。いつか、噛み合う友達が現れる』
「…………」
『それに、わたしの目は覗き込めるみたいだし』
「それは……君の背丈が低いから、俯けば必然的に」

「やっぱり人の目は怖いよ!」
『それは人の心を読もうとするからだよ』
目は口ほどに。
(log6-3.html/2007-01-14)


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